■私たちのご先祖様はチンパンジーとエッチしてた!?
マルチーズとプードルを掛け合わせるとマルプーになり、ハスキーとポメラリアンを掛け合わせるとポンスキーになる。姿かたちがまるで違う犬たちだが、交配は可能だ。
では人間はどうか? 前回の記事で紹介したように、古代世界では、原人、旧人と新人が同時期に暮らしていた。
犬と狼のかけ合わせでオオカミ犬が生まれ、ブラジルでは犬と狐の雑種ドックシムが見つかっている(注1)。オスのライオンとメスの虎をかけ合わせるとライガーが生まれるし、メスの馬とオスのロバをかけ合わせればラバだ。遺伝的に近い動物なら種は違っていても子どもが生まれるのだ。
注1/「犬とキツネの子を確認、世界初、「人とチンパンジーの子のようなもの」と研究者」(ナショナル・ジオグラフィック日本版2023年10月6日配信記事)
チンパンジーと最初の人類であるサヘラントロプス・チャデンシスが分岐したのは約600万年前のことだが、マサチューセッツ州ボストンのハーバード大学医学部のデビッド・ライヒらの研究(注2)によれば、遺伝子に交雑した跡が見られるという。なんと最初の人間はチンパンジーと交わっていたのだ。しかも短期間ではなく、およそ300万年前まで交雑は続いたらしい。
注2/「Genetic evidence for complex speciation of humans and chimpanzees」(Nick Patterson他 Nature 2006年5月17日)
何をやっていたのだ、ご先祖さま。
チンパンジーと人間の雑種が生まれていたのなら、ホモ・サピエンスと旧人であるネアンデルタール人やデニソワ人、あるいは北京原人やジャワ原人の間でも子どもは生まれたのか? ホモ・サピエンタールやホモ・サピエンソワがいてもまったくおかしくない。
■急速に進んだ遺伝子研究で人類史が書き換わる?
2022年にノーベル医学生理学賞を受賞した、マックスプランク進化人類学研究所のスヴァンテ・ペーボ氏はネアンデルタール人の遺伝子を解析。現代人の遺伝子にネアンデルタール人を始めとする先住の人類の遺伝子が含まれていることを発見した功績がノーベル賞の受賞につながった。
ペーボ氏の研究で、ほぼすべての現代人が、ネアンデルタール人由来の何らかの遺伝子を1~4パーセント持っていることが明らかになった。さらに、シベリアに生息していたデニソワ人の遺伝子が、遠く離れた南太平洋のメラネシア人やポリネシア人、オーストラリア先住民のアボリジニの中に1~6パーセント残っているという、奇妙な事実も判明した。
また、当初、アフリカ人はネアンデルタール人の遺伝子を持っていないと思われていた。ネアンデルタール人はヨーロッパに生息し、アフリカ人はアフリカを出て行かなかったホモ・サピエンスの子孫だからだ。ところがアフリカ人にもネアンデルタール人の遺伝子が見つかったため、アフリカを出たネアンデルタール人がアフリカに出戻ったらしい。アフリカを出た人類はアフリカに戻らないと思われてきたが、結構、行ったり来たりしていたらしい。