京都・三条寺町にかつて存在した「複数の霊が居座る酒場」。連載第4回で紹介したこの物件、その後、奇妙な経緯の末、「本物のお化け屋敷」として営業することとなり、惜しくも2022年に閉業した。前編ではその運営に関わった怪談師Cocoさんから貴重な証言を明かしてもらったが、実はこの物件には、さらなる怪現象が存在したという──。
■地下で工事業者が“謎の二人組”と遭遇
「先に撤退時のことからお話しますね。建物自体が半世紀以上建っているので、老朽化でもう閉館しなければならないとなり、内部の解体作業を業者さんにお願いしたんです。そのとき、何かが現場に現れたらしくて……」
ある日の作業中のことだ。業者の男性がふと気配を感じて振り返ると、地下につながる階段部分に、髪の長い人物が二人立っていた。何か喋るでもなく、ただぼぅっと立っているだけの様子を見て、男性は「Cocoさんとマネージャーさんかな?」と気にしなかったらしい。
「私も共に活動しているマネージャーも髪が長いので、最初は『あの二人かな?』と思われたそうです。でも、その日は私もマネージャーも現場に顔を出していませんでした。業者さんはその“何か”に向かって挨拶をしたそうですが、返事がないので不審に思ったらしくて……。その後も作業を続けたそうですが、帰り際に、建物の外鍵が閉まらなくなるトラブルが起きたとか」
業者が何度も施錠を試みたものの、扉の鍵はいっこうに閉まらない。その扉というのが、地下につながる階段……つまり、謎の二人組の霊が出た真上に位置していた。
「業者さんは『いろんな場所で作業してきたけど、いつもココだけ変なことが起こる』と仰っていました。その地下の階段ですが、施工時にも幽霊が出ていたんです」
■階段を下りてきた“バブル時代の女”
お化け屋敷が開業する前、施工時の話だ。夜中に大工さんが地下で作業をしていると、上からコツコツとハイヒールの音が聞こえてきたという。「あれ? 人が来た?」と音がする方向を見ると、“バブル時代のファッション”をした若い女が地下へつながる階段を降りてきた。
肩パットが入った、上下同じ色のボディコンスーツ。いかにもバブルといった装いの女は、階段を降りきると壁に向かって立ったまま微動だにしなかった。
「大工さんは気味悪く思いながらも『こんばんは』と挨拶をして、何かしら話かけたそうです。遅い時間帯に一人で作業をしていたので、喋る相手が欲しかったんでしょうね。女は相槌は打つけど、何も喋らなかったみたいで。『人見知りな子なのかな?』と気にせずに話かけ続けたそうです」
ずうっと壁に向かって立っている女相手に、一人作業の寂しさを紛らわそうとするとは……なかなかにメンタル強者な大工さんだ。5分ほど経った頃、階段の上からお化け屋敷運営メンバーのスタッフが声をかけてきた。
「『進捗どうですかー?』『今こんな感じです~』とやり取りをしている間に、女は忽然と消えてしまったとか……。立ち去る足音は聞こえなかったそうです」
ちょうどバブルの時代にBARのような店があったことから、「何かしらの忘れ物を取りに来た霊か生霊だったのかもしれない。地下に用があったのは確かでしょうね」とCocoさんは語る。
しかし、話はこれだけで終わらなかった。この出来事を書籍に寄稿するため、再度その大工さんに取材しようと試みたCocoさん。運営スタッフに仲介を頼んだところ、直後にとんでもないトラブルが襲った。
「スタッフが運転していた車が、後ろからトラックに追突されて……。乗っていた車が大破したんです。事故に遭ったタイミングというのが、スタッフが大工さんから話を聞き、それを私に伝えようとしてくれた直前でした。奇跡的に死者や重傷者は出ませんでしたが、『アレを聞いて喋ろうとしたから二次災害なのかも』と言っていましたね……」
聞くだけで呪われる話は怪談のテッパンだが、まさか本当に障りが存在するというのか。念のために記しておくと、今のところ筆者には何も起こっていない。もしかすると、当事者から直接話を聞くと障りが生じるパターンなのかもしれない……。
■京都の歴史にまつわる因縁の土地だった!?
さて、心霊体験談のフルコースなこの建物だが、もしかすると“土地”に何かがあるのではないだろうか。そもそも、もともと寺が所有していた土地を使っているのだ。当時、どのように土地が使われていたか定かではないが、もし墓地として使用されていたなら、商業施設を建てる際に墓も潰したはず。始まりからして“いわく”まみれなワケだが、Cocoさんはさらに興味深い話を教えてくれた。
「三条河原が処刑場だった頃、あの土地は“罪人たちの通り道”だったそうです。あの付近のどこかに罪人たちが収容されていて、処刑の日になるとお寺の前を通って三条河原に向かっていたという話を聞きました」
京都の三条河原といえば、平安時代から幕末にかけて有名な処刑場だった。有名なところでは戦国時代の大泥棒・石川五右衛門や豊臣秀吉の甥、秀次の一族39人がこの地で惨死している。罪人たちが死に向かうルートの途中にあった土地。もしかすると、非業の死を遂げた者たちの怨念が土地に残り、霊が呼び寄せられていたのかもしれない――……。
京都ウラ案内では、今後もこの土地にまつわる謎を追っていくつもりだ。
X&Instagram:@coco_horror
京都府在住。新進気鋭のホラープランナーでありながら、怪談師としても数々のイベントやメディアに出演中。自他共に認める正真正銘のホラーマニア。TikTokのフォロワー数は24万人。SNSの総フォロワー数は35万人を超え、日本トップクラスの知名度を誇るお化け屋敷プロデューサー。恐怖を徹底的に追求するのはもちろんのこと、怖いものが苦手な人も楽しめるお化け屋敷を目標としている。趣味はバイクとカメラ。
「怪談専門のお店 京都怪談商店」代表/「ホラー喫茶 シェフのいないレストラン」監修/「稲川淳二の怪談グランプリ2022」出場/「怪談テラーズ」出演
【著書】
『京都怪談 猿の聲』(竹書房怪談文庫/共著)
『怪談怨霊館』(竹書房怪談文庫/最新刊!)