英植民地の探検家が発見し「楽園」が地獄へと

マッコーリー総督

島の名前の由来となった植民地総督、ラックマン・マッコーリーの肖像

画像:John Opie, Public domain, via Wikimedia Commons

 マッコーリー島が世に現れたのは1810年7月11日のこと。英領オーストラリア植民地のアザラシやオットセイの猟師で探検家でもあったフレデリック・ラッセルボロー船長が、この島を発見。ニュー・サウスウェールズ州植民地の総督、ラックスマン・マッコーリーにちなみ、この島の名が付いた。

 

 ラッセルボローらが”初上陸”した時、実は、「非常に古い形式の難破船の残骸を発見」と報告があったが、島はもちろん生きた人間は誰一人いなかった。その代わり、これだけ過酷な環境にもかかわらず、数十万頭のオットセイやゾウアザラシ、さらに数百万羽のペンギンの群れが暮らす野生生物の楽園だったという。ただ、彼ら野生生物にとって、この島はすぐに楽園から地獄に変わるのだが……。

1911年のマッコーリー島

乱獲が最末期の1911年頃の島。ペンギンたちの後ろに見えるのは難破船の残骸

画像:State Library of New South Wales, Public domain, via Wikimedia Commons

 絶海の孤島ということで、発見当初は新たな流刑地にとのプランも上がったが、こんな(人間にとって)地獄のような環境では、ひと冬越すのも難しいうえ、海が荒れすぎて10隻に1隻は難破するということで却下。その代わり、大量のオットセイの毛皮を狙って命知らずの猟師たちが大量に押し寄せた。

 

 さらにゾウアザラシは油を取るため、ペンギンも羽毛を目的に大虐殺と、カネに汚く欲深ジョンブル魂(?)が発揮され、100年近くにわたり乱獲が繰り広げられ(最終的に禁止されたのは1919年)、島の生物は絶滅寸前まで追い詰められたのだ(ホント、19世紀から20世紀のイギリスはクソである)。

 

マッコーリー島独自の生態系

マッコーリー島/ペンギンとアザラシ

マッコーリー島を象徴するビーチの風景。オウサマペンギンとミナミゾウアザラシがのんびり暮らしている。

画像:Hullwarren, CC BY-SA 3.0 , via Wikimedia Commons

 乱獲地獄から抜け出してから約100年経った現在、島の生態系は大きく回復している。人間により持ち込まれた外来種の猫、ニュージーランドクイナ、ウサギ、クマネズミなどは在来種の生態系を脅かすため、一部が駆除された。これによりペンギン類は百数十万羽、海獣類も十数万頭規模に復活している。

 

 また、現在では環境保護のため、一般人の観光目的での立ち入りは固く禁じられ(注3)、その意味でも「絶海の無人島」として知られている(なお、日本のTBS「THE 世界遺産』撮影チームが2013年に上陸。「日本初取材!ペンギン140万羽の島~マッコーリー島」として貴重な記録を残している)。

注3/現在は、オーストラリア政府のマッコーリー島観測所が設けられ、研究者が滞在している。

マッコーリー島/ロイヤルペンギン
ぎょっとするぐらいの数のペンギンが島内各所でコロニーを作っている 画像:M. Murphy, Public domain, via Wikimedia Commons

 もともと大陸から遠く離れた孤島だが、マッコーリー島は海洋生物や海獣類の大規模繁殖地。なかでも圧倒的な数を誇るのが、ペンギンだ。オウサマペンギン、ジェンツーペンギン、イワトビペンギンなど25種類以上数百万羽のペンギンがコロニーを作って生息している。

 

 さらに、この島でしか見ることができない固有種が「ロイヤルペンギン」だ。また、全世界の生息数の7分の1にあたる10万頭以上のミナミゾウアザラシが集う。さらに、周辺の海はオキアミなどが豊富で、海洋生物の楽園となっていて、島近海では大型のクジラ類も繁殖しているという。

 

 こうした環境保護や生態系保全の努力の結果、1997年に島は世界遺産(自然遺産)に登録された。ただ、その理由にはもう一つ。この島の珍しい特徴が影響しているという。

 

「禁じられた無人島」は今も成長している!?

マッコーリー島観測所

島内で唯一「人類の生存が許された」マッコーリー島観測所

画像:M. Murphy, Public domain, via Wikimedia Commons

「絶海に浮かぶ……」などと表現されることもあるが、無人島は当然のことながら海に浮かんでいるわけではない。マッコーリー島は近くのマントルの噴気孔が直接海面まで達し、海面から6kmの深さにあるマントル由来の岩石が露出している地球上で唯一の場所。地質学的に貴重な場所となっており、これも世界遺産に登録された理由の一つなのだ。

 

 約1000万年前にインド・オーストラリアプレートと太平洋プレートがぶつかり、盛り上がってできたのがマッコーリー島なのだ。現在も地震と隆起を繰り返し、そのサイズは大きくなり続けている(注4)。また、島の東側は水深5000mまで急激に落ち込んでいて、島の周辺には魚類が豊富に生息している。

注4/実際、2004年には島近海を震源とするマグニチュード8.1の巨大地震も発生している。

 

 過酷な気象条件と、地理的な条件ゆえ人類の立ち入りができない「禁じられた無人島」マッコーリー島。人類の文明から遠く離れた無人島で、まだ見ぬ生物が独自の進化を遂げているかもしれない。