前編では「美味しいとんかつの材料」ぐらいにしか思われていなかった豚さんが、実は人間の3歳児並みの知能をもっていて、なかにはテレビゲームを楽しむ連中もいるらしい、との最新研究を紹介したが、陸が豚なら海の「隠れた天才たち」はイカとタコなんだとか。鏡で身だしなみを整え、会話も算数もできて、おもちゃで遊ぶ!? 知られざる天才たちの素顔を紹介していこう。

 

■鏡で自分の姿に見惚れるイカ?

イカが犬猫並みに賢い? ちょっと納得しがたいが、科学的事実。頭がいいのにスルメにされるかあ? と思わなくもないが……

画像:写真AC

 イカやタコが、どうも想像以上に頭がいいらしいと動物行動学の研究者たちは気づいている。

 

 鏡に映っているのが自分だと理解するのは知能の高い証拠だと前回紹介した。琉球大学理学部の池田譲教授によれば、自己認識とは「ヒトを含む一部の大型類人猿とバンドウイルカにのみ認められる高度な知性」(※1)であり、鏡を見て自分を自分だと認めるのは、自己認識の最初の段階であって、相当に頭がいい証拠なのだ。

 池田教授による実験では、アオリイカに鏡を見せると、そっと鏡に触れて自分の姿を確認するような仕草を見せた。複数のイカが一緒に泳いでいる状態で鏡を見せても、鏡の前で止まって腕で鏡に触れる仕草を繰り返したので、映っているのが自分の姿だと理解しているらしい。

 またイカの視界の外にマークを付けると、鏡の前で止まるとマークを確認するようにじっとしていた。あらこんなところに汚れが? と思ったのかもしれない。

 

■イカの七変化はただの保護色ではなかった?

 イカの目は人間並みに良く、小型の哺乳類ほどの脳があるイカもいるのだそうだ。

 

 クイーンズランド大学のウェアサン・チョンがイカの脳をMRIで調べたところ、5億個を超えるニューロンがあり、ラットで2億個、通常の軟体動物では2万個であることから、ほぼ犬並みの情報処理が可能であることがわかったという(※2)

 

 彼らは砂や岩の色や海の色に合わせて体色を変えるが、敵に遭遇したり、求愛する時にも特殊な体色のパターンを見せる。体色の変化は自動的に起きるのではなく、彼らが意識して使っている可能性が高い。体色の変化はただの保護色ではなく、もっと意味があるのではないかと学者は考えている。

 

 オスのイカは体の半分で求愛の色を表示、もう半分で他の雄を威嚇する体色を表すという器用なことをしたり、群れの中の位置によって体色のサインを変える。

 

■まさかの「イカ言語」が存在した!?

イカの体色
鮮やかに変化するイカの体色。実はこれで「会話」をしていたのだ! 画像:Shutterstock

 群れの中で偵察や見張りなどの役割分担を体色のサインのやり取りで決めているらしく、群れ全体で体表の模様を変化させながら、複雑なやり取りをしている。群れでエサを食べるときに、他の群れにサインを送ってケンカにならないように気を使ったり、エサを食べる時の順番を決めたりもしているらしい。

 

 リーダーのイカ(ハブ個体と呼ぶ)を失うと群れは狩りができなくなり、エサの生き物を前にじっと動かないこともわかった。さらにユニークなのは、イカの群れが網にかかった場合だ。網の穴から逃げた個体は群れに、網のどこから逃げたのかを教えているらしいのだ。

 

 イカの寿命は2年足らずしかない。にもかかわらず、集団をつくり、役割を分担するというのは驚異的だ。こうした高度なコミュニケーションを可能にしているのが、体色の変化らしい。彼らの体色の変化が、人間でいう文字にまで進化しているのかわからないが、網からの逃げ方を教えられるということは、かなり複雑なやり取りが可能なのだろう。彼らにとって、体の色が変わることは保護色だけではなく、言葉なのだ(※3)

 

 イカは体色でしゃべるわけだが、彼らの知能はそんなものだけではない。なんと彼らは数も理解している!