■君は天才タコ「パウルくん」をおぼえているか?
旧聞ではあるが、2010年のFIFAワールドカップで、サッカーの試合結果を予言するタコのニュースを覚えている人も多いだろう。ドイツの水族館で飼育されていた故パウルくん(2歳9カ月で没)は、13試合のうち11試合(ドイツ戦以外も含む)の勝敗を的中させる離れ業をやってのけた。
タコがどうやって試合結果を予想したのか? やり方はすごくシンプル。透明な箱に対戦国の旗と餌を入れ、先にパウルくんが蓋を開けてエサを食べた国が勝つとしたのだ……え~と、これって予言? それでもパウルくんはドイツの全試合結果を当てたのだから、世の中、不思議なことばかりだなあ。
■タコはアイデアが閃くとホントに頭が光る!
タコはただの箱の蓋はもちろん、なんとビンの蓋だって開けることができる。餌の入ったビン(エサの匂いがわかるように、蓋には小穴が空けてある)を置いておくと、蓋を開けて中身を食べるのだ。その様子を生物学者が観察したエピソードがすこぶる面白い。
飼育していたタコの水槽にエサの入ったビンを沈めると、タコはすぐにビンにとりついたが、蓋を回すことに頭が回らないようで、いつまでも蓋が開かない。見ている研究者のほうが飽きてしまい、研修室のメンバーでお茶を飲んでいたら、助手が
「先生、大変です! タコが光っています!」
何を言っているのだろうと水槽を見に行くと、タコが光っていた。マンガであるだろう、アイデアを思いついたら頭の上でライトが点くやつ。タコは蓋を開ける方法を見つけて、まさにあの状態になり、すごい勢いで体色を点滅させながら、ビンの蓋を開けていたのだ。それはもう、光ってるとしか言えないぐらいに猛烈に。
「タコも開けられてうれしかったんでしょうねえ」
とは、この実験を行なった生物の先生。タコにもうれしいという感情があるのだ。彼らは犬猫と同じぐらい賢い。
ちなみに他のタコが開けるのを見ると、初見のタコもさっさとビンを開けるようになるのだそうだ。見て学習するのだ、彼らは。しかも、水族館で飼われていたタコは、ビンの蓋を開けた後、なんとその蓋でキャッチボールを始めた。水面に浮かんだ蓋を足で放り投げてはつかんでいる。明らかに「遊んで」いるのだ(実際の様子は以下の動画を参照)。
タコの中にはココナツや大きな貝の殻を拾ったら持ち歩き、敵の魚が来るとその中に隠れるという、まさに道具を使うことをやってのける個体もいるそうだ。
イカもタコも賢いことがわかった。スルメや酢だこを食べる時は、これからは罪悪感を感じそうだ。しかしさすがに虫はどうだろう。虫はマシンだろう。ハチはすごい巣を作り、花のありかをダンスで伝えるらしいが、あれはすべてプログラムだと本で読んだ。機械のようなもので……え? ハチがボールで遊ぶ?
(以下、衝撃の「昆虫の知能」については11月29日公開の後編に続く!)
※1 「イカ類の自己認識と社会性の発達に関する行動学的研究」(日本学術振興会 科学研究費助成事業 基盤研究(C) 基盤研究(C) 2004年 - 2005年)
※2 「Toward an MRI-Based Mesoscale Connectome of the Squid Brain」(Wen-Sung Chung iScience Volume 23, Issue 1, 24 January 2020, 100816)
※3 「アオリイカ群れのソーシャルネットワークにみるイカ類社会性の基盤」(杉本親要 The Japanese Journal of Animal Psychology, 69, 2, 147-159 (2019))
※4 「Cuttlefish can count」(Nature volume 537, page11 (2016))
※5 「Cuttlefish show flexible and future-dependent foraging cognition」(Pauline Billard the Royal Society 05 February 2020)