「レミングの死の行進」という言葉を聞いたことがあるだろうか。レミングはモルモットのような姿のネズミの仲間で、数が増え過ぎると崖から海へ飛び込むという。人口が増え過ぎると起こる悲劇としてよくネタになるが、実は大ウソだった。動物の新常識を紹介する最終回は、このネズミにまつわる都市伝説について。
都市伝説「レミングの死の行進」とは?
レミングは北極から北欧にかけて住むネズミで、ものすごく食いしん坊だ。1日に体重の1.5倍の食べ物を必要とする。この食欲のせいで、住んでいる地域の食物を食べ尽くし、3~4年ごとに数の激減と大増加を繰り返す。増える時は1年で10倍にもなる。
数が増えたレミングは、エサを探して集団に分かれて移住する。この時、浜辺や川岸に集まり、立ち往生することはあるが、わざわざ水に飛び込むことはせず、岸に沿って移動する。しかし、これがレミングの死の行進の元ネタらしい。
実際、「レミングが集団自殺をする」という噂は、もともと地元にあったようだ。19世紀に活躍したノルウェーの自然史家、ロバート・コレットは論文(※1)の中で、野生のレミングは爆発的に増加すると、
「彼らは海にもひるむことなく、溺れるまで泳ぎ出し、海岸に死体を散らかした」
と記している。そしてさらに、
「行進中、彼らはいかなる障害物に対しても脇に寄るようには見えず、あたかも“何か奇妙な力に駆り立てられた”かのようだった」
と、さも密着取材したかのように生々しく描写している(※2)。ロバートよ、お前、吹かしてんじゃねえぞ。こういうウソや駄ボラが積み重なり、レミングの死の行進は都市伝説となったのだ。
※1「ノルウェーのMyodes lemmusについて」(The Journal of The Linnean Society、Zoology、xiii 1877)
※2「The Suicidal Animal: Science and the Nature of Self-Destruction」(Edmund Ramsden, Duncan Wilson Past & Present, Volume 224, Issue 1, August 2014)
■残虐なネズミ映画会社の非道な映画が原因
では、このノルウェー・ローカルな噂話というか都市伝説が、なぜ、世界中に広まったのか? それには「もう一匹のネズミ」が関わっている。この一種の都市伝説を元ネタにいして、ディズニーはドキュメンタリー映画『白い荒野』を製作したのだ(1958年公開)。
当然、この映画にもレミングの死の行進が出てくる。前述したように、レミングは崖から落ちたりしないし、もし落ちても泳いで岸に戻ってくるのに、映画ではバーゲンセールのおばちゃんたちのように崖に殺到し、ボーリングのピンのようにポンポンと海へ落ちていく。海に落ちたレミングは、海を湖と勘違いし、向こう岸を目指して延々と泳いで最後は溺死するのだとナレーションが流れる。
ナチス・ドイツの暴走のように、常軌を逸した指導者や独裁者によって国家や特定の集団が何も疑うことなくに自滅の道に進んでいくという歴史上の事例や事件、人口増加を抑制するために自殺行動に出る例として、レミングの死の行進は取り上げられた。