■人口が増える時、すべては絶滅する

世界の人口を50年単位で見ると、20世紀以降、人口は爆発的に増え続け、2100年には今の約2倍の150億人を超える。

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 生物が増えても「死の行進」は起こらない。しかし、実際にはもっと恐ろしいことが引き起こされるのだ。アメリカの動物行動学者ジョン・B・カルフーンは空き地を塀で囲んでネズミの町を作り、1949年までの28カ月間、およそ2年に渡って彼らの行動を観察した。

 

 そこでわかったのは‟人口密度“が一定数を超えるとネズミたちが異常な行動に走ることだった。異常なほど活発に動き回り、眠りもしない個体もいれば、反対に仲間が眠っている時だけ飲み食いする個体など異常行動を起こす個体が続出、さらには共食いまで起こった。異常行動が増えるにつれ出産率は減少し、育児放棄が起きて数は減少した。

 

 カルフーンは十分すぎるエサとできる限り清潔な環境を用意したが、ネズミたちは数が増えると凶暴化し、殺し合いを始め、全体数を減らした。では、さらに調整を行ない、全体数が減り続けたらどうなるのか?

 

■ネズミの楽園「ユニバース25」とは?

カルフーンが作った巨大ネズミ飼育施設「ユニバース25」

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 カルフーンが作ったのは『ユニバース25(第25番目の宇宙)』という巨大な巣箱だった。総計256個の巣箱で最大3840匹のネズミが暮らすことのできる巨大なネズミのマンションである。

 

 四方に巣箱が積み重なったさまは、今どきのタワマンのようだ。その中央に広々とした遊び場と餌場がある。空間を三次元に使うことで、一匹あたりの面積を確保しながら、飼育スペースを小型化し、ネズミたちの密度を高めた。

 

 エサと水は絶えず供給され、エサを探す必要はない。天敵もいなければ、温度はエアコンで一定に保たれる。十分な数の巣箱も運動スペースもある。 ネズミにとって『ユニバース25』はユートピアであり、パラダイスに違いなかった。

 

 1968年7月9日、カルフーンはこのユートピアに生後48日のハツカネズミを4ペア8匹放った。

 

■「ネズミのユートピア」は人間の未来?

 どうなったか? 共食いや育児放棄によりネズミたちの数が減った後、育児放棄された、社会のルールを教えられないネズミたちの群れが残った。

 

 彼らは争うこともしない代わりに、生殖活動も他のネズミとのコミュニケーションも一切取らず、一日中、毛づくろいをして過ごした。傷ひとつなく、素晴らしい栄養状態でツヤツヤとした毛並みの彼らを、カルフーンは「ビューティフル・ワン」と呼んだ。

 

 実験から2年後、最後のビューティフル・ワンが死に、最大時で2200匹まで増えたネズミたちは全滅した。

 

 カルフーンの実験は、人口爆発が食糧危機を引き起こし、戦争が起こるという、わかりやすいディストピアではなく、出産率が低下し、社会がゆっくりと死に絶えるという恐ろしい未来を暗示している。今まさに人間は、ユニバース25のネズミたちのように独身世帯の増加と少子化に直面し、引きこもりに困惑している。

 

 私たちはカルフーンの実験を知らなくてはならない。これこそ教科書に載せていただきたい。今、私たちは滅びようとしているのだ。