「あなたの怖い体験、不思議な体験を百円で買います」
こんな文言で兵庫県尼崎市の商店街でひっそりと「怪談売買所」を出店する、怪談作家の宇津呂鹿太郎(うつろ・しかたろう)さん。プロの怪談師ってどんな方? 怖い話ってどうやったら上手に書いたりできるの? 当連載を始めて1年、怪談に関してはまるで素人のカワノアユミが、お話を聞かせていただきました!
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■カワノさん、怪談書いてみません?
「カワノさん、うちの媒体で怖い話書いてみませんか?」
今から1年と少し前、2022年暮れのこと。以前、書かせてもらっていた旅情報サイトが終了することになり、姉妹サイトである電脳奇談の編集担当S氏から突然、言われたのだ。
「……でも私、霊感とかまったくないですし、怖い話なんて書けないですよ?」
「カワノさん、夜の街を取材してますよね? 水商売って 怪しげな話とか怖い噂をよく聞くじゃないですか。別に心霊だけが怪談というわけではないので、『夜街怪談』として書いてみたらいいんじゃないですか!」
まぁ、確かに……。水商売も15年もやっていれば、人が消えたとか死んだとか、そういう類の話はたまに耳にする。そういうネタでよければ……。こうして、半分押し切られるような形で当連載がスタートすることになったのだ──。
■連載は毎回、ゲロ吐くようなツラさ
だが、現実はそんな甘いものではなかった。そもそも、私が今まで書いていたのはルポとか、いわば報道に近いジャンルである。つまり、人に読ませられるような“怪談”として書くことができず、どうしても「現実的」な文章になってしまうのだ。
「カワノさん、怪談なんだから事実かどうかとかウラ取りは大事なポイントじゃないいんですよ……。あと、ここも…この書き方も……(以下略)」
私が必死で書いた原稿を毎回、何度も赤字だらけにして戻してくるS氏……この鬼畜編集担当が!! それでも、毎月直しては掲載しているものの……ハッキリ言って毎回、ゲロ吐きながら書いてるわ! しかも、怖い話というものというのは、そうそうネタが見つかるものじゃない。そんなとき、とある番組でたまたま、宇津呂鹿太郎さんの怪談売買所の存在を知ったのだ。
「怪談売買所……? しかも、尼崎!?」
カワノは現在、兵庫県尼崎に住んでいる。まさか、こんな身近に怪談のプロの方がいたとは……! しかも、怖い話を100円で売買しているですって!? これはぜひとも、話を買ってみたい!(ネタがほしい!) こうして、取材をさせていただくことになったのだ──。
■宇津呂さん、怪談の“コツ”を教えて下さい!
現在、兵庫県尼崎市にある杭瀬中市場の古書店「二号店」にて「怪談売買所」を出店している、怪談作家の宇津呂鹿太郎さんは兵庫県尼崎市出身だ。幼少の頃から怖い話が大好きで、社会人になっても知人から聞いた怖い話を集めていた宇津呂さんが“怪談師”としてデビューしたのは2009年のこと。
だが、怪談業界というのは怖い話を集めるのがなかなか大変なようで、新人怪談師の宇津呂さんも話を集めるのに苦労したという。「怪談話を交換できる場所があったらいいな」そんなことを考えていたところ、尼崎の三和市場のイベントスペースから「何かお店をやりませんか」と声を掛けられたのをきっかけに、怪談売買所を開店することとなった(次回開催の情報は以下をご参照ください)。
2024年3月2日(土)、3日(日) 午前11時~午後7時
場所:杭瀬中市場 古書店「二号店」前
住所:兵庫県尼崎市杭瀬本町1丁目18−12
アクセス:阪神電車・杭瀬駅から徒歩6分
今回の取材前、1月29日に発売された宇津呂さんの新刊『阪急沿線怪談』(竹書房怪談文庫)を読んだ私。京都、大阪、神戸と関西三大都市に潜むご当地怪談を集めた本なのですが……めちゃくちゃおもしろかったです! 短編な怪談の中になんともいえない不気味な話、後味の悪い強さの話、少し笑える話などもあって……プロの怪談師ってやっぱりすごい。
あの、早速なのですが、怪談を書くときのコツとかアドバイスとかってあるんですかね……?
■怪談の基本は「聞いたまま語る/書くこと
「書くときも語るときも同じなのですが、話の順番は基本、聞いたまま語るようにしています。怪談というのはプレゼンと同じで、どの情報をどの順番で開示していくのかが肝になるんですよね。まずはその話の”核”となる部分を決めて、どういう順番で開示していったら、もっとも核となる怖い部分が際立つのかを考えるんです。なので、話によってはクライマックスを先に語ることもありますね」(宇津呂さん)
……核となる部分。そういえば私、編集担当に「話がとっちらかっている」と言われることあるな……。なるほど、勉強になります!
「それにまず、人から怪談話を聞くときに、頭でまとめて映像にするんですよ。ここはこんな表現がいいかなとかエピソードの順番とか、それぞれの場面で考えて文章にします。
それでしっくりとまとまったら、あとは読んだり書いたりするだけですね。普通に読むだけでは朗読になってしまうので、そのときの自分の言葉に変えながら語っていくようにしています」(宇津呂さん)
私もアウトプットが苦手なのでその方法は参考になりそうです! ちなみに、私は心霊的なことや怪談などを聞くと「それは昔、何か事件があったからでは?」とすぐにウラを取りたがるんですが、宇津呂さんはどうですか?
■体験者の語る“想い”を汲み上げる
「僕自身、そういう考えはあまりなくて、あえてそういうふうには考えないようにしていますね。
実は僕、そもそも霊の存在を信じていないんですよ。霊の存在を信じたら心霊現象が起こるのは当たり前になっちゃうじゃないですか。出て来て当たり前のものと考えたら怖くなくなっちゃうんですよね。
なので、不思議な出来事や現象は不思議なもので終わらせたいですね。ただ、なぜか事故が多いとかそういう場所ってあるじゃないですか。なので、霊の存在を完全に否定するわけではなく、ひょっとしたらあるのではないかな……程度として捉えていますね」(宇津呂さん)
すぐにウラを取りたがるカワノ、自分が恥ずかしくなってきました……。最後に、宇津呂さんが怪談を語るときに、一番大事にしていることを知りたいです!
「怪談なので怖い部分というのは、やはり大事なのですが、僕はどちらかというとその体験を語ってくれた人の中でその話がどういう位置づけとして捉えられているのか、その話の中に体験者のどんな想いがあるのかを大切にしています。
僕はあくまでも実話の怪談師としてやっていて、これだけたくさんいる怪談作家や怪談師の中から『僕を選んで語っていただける』というのはありがたいことだと思うんです。
なので、なぜ僕を選んでくれたのか、僕が今まで書いた作品を見て『宇津呂さんにだったら、託してもいいかな』と語ってくれた人の想いを、ないがしろにしないようにしたいですね」(宇津呂さん)