ヨーグルトも卵も人の心がわかる?
バクスターは、やがて小エビが死ぬと植物は動揺する、ヨーグルトにも意識がある、卵はゆで卵にされることを知ると失神する、とどんどん範囲を広げていく。
当時は、ポリグラフの大家であるバクスターが言うのだからと学術界も軍部も信用し、米海軍では海藻をトレーニングして潜水夫に警告を出す研究も行なわれたという……米海軍がワカメや昆布にダシ以上の何を期待していたのかわからないが、やがて他の科学者による追試がことごとく失敗したことで、軍も学術界もバクスターの研究を無視するようになる。
植物が人間の感情に反応するかどうかを調べるのはいい。しかし、実験が精密さに欠け、他の研究者の行なった追試がことごとく失敗、猛批判にさらされたバクスター。その際の彼の反論はこうだった。
「実験者が実験前に植物に触ったからだ!」
実験者が植物に事前に触ったりすると実験者と植物の間にきずなができるとバクスターは説明する。人間とつながった植物は、人間が望んだ結果をはじき出すようになる(いわゆる「忖度(そんたく)」ってやつですな)。その結果、実験とは無関係な結果が出てしまうという。
かくして、バクスター効果は学術の世界からは全否定されたが、しゃべるヨーグルトや失神する卵のインパクトは、正しいかどうかなど関係なく世の中に定着し、今もIKEAの実験のように、どこからともなく蘇ってくるのだ。
植物は平和で静かな生物なのか?
IKEAの実験は、前提に「植物は平和でおだやかな生き物」というイメージがある気がする。植物はピースフルな生物で、環境に逆らわず、静かに生きている。環境を破壊し、争いの絶えない人間とは大違いだ、みんなベターなトゥモローのためにグッドなコミュニケーションしようぜ、ということ……。
大間違いのコンコンチキである。
たとえばトマトは、動物に実を食べられることで、種を運んでもらう、だから実を食べられないと困るが、だからといって果実が熟していない時に食べられても困る。種がまだ育ってないのだ。
でも、どこの世の中にもバカはいるのだ。虫でも鳥でも、まだ食えないといっても食おうとする。まだ青いだろう、食うなよ、ふざけるなである。そこで、トマトは考えた。
「毒盛っちゃえ」
青いトマトにはトマチンという毒があるのだ。ジャガイモの芽に含まれるソラニンとよく似た毒だ。似ているのは当然で、ジャガイモとトマトは親戚、元の親はナスビである。
トマトだって立派に生きている。そして動けないからこそ、生き残るために知恵を絞る。ただ受け身で言いなりになっているわけではない。人間とは大きく違うものの、彼らも生き残るために戦っているのだ。
続く後編では、植物が生き抜くために獲得した様々な能力に迫る。「植物には目がある!?」「実は植物は痛みを感じている!?」「栗の木は離れたところの子どもを養っている!?」などなど、植物を見る目が変わる新しすぎる理科の新常識をご紹介するので、乞うご期待!