■天岩戸に引きこもったアマテラス

日食

太陽神のアマテラスが隠れる、つまり日食のこと。

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「もうイヤ! あんなヤツの顔なんか見たくもない!」

 

 前回(連載第4回・中編)で紹介したように、あまりにもひどいスサノオの乱暴狼藉に、ブチ切れ状態となったアマテラス。彼女は「天岩戸」(あまのいわと)という洞窟に引きこもってしまった。

 

 アマテラスは「日の神」だ。隠れてしまうということは、太陽が姿を消してしまうことになる。つまり「日食」だ。ただ、普通の日食なら、時間の経過でもとに戻る。しかし、アマテラスが「スサノオを何とかしてくれなきゃ、わたしはここから出ない!」という意思を固めた以上、日食状態はつづく。アマテラスは頑固者でもある。

 

岩戸隠れ

「岩戸隠れ」により地上は化け物がウヨウヨする地獄に……。

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 世界は闇におおわれた状態となり、地上だけでなく高天原にすら魑魅魍魎(ちみもうりょう)が幅を利かせる。ハエの羽音のようなおぞましい声が天地に満ち、ありとあらゆる災厄が世界中を襲う。疫病が蔓延し、津波が起こり、大台風が吹き荒れる。まさにこの世の終わり。しかも地上はもとより、高天原すら滅亡の危機に立たされてしまったのだ。

 

■神々も困り果てる難問に…

岩戸隠れ
「岩戸隠れ」は巨大噴火により天が覆われるなど古の大災害を伝えるものとも……。 画像:Shutterstock

 アマテラスは、自分が日の神であることを自覚していたはずだ。岩戸に入れば、世の中もどうなってしまうか知っていたに違いない。にもかかわらず岩戸に隠れるのは、わがままだし無責任だとしか言いようはない。

 

 困り果てたのは、高天原の神々だ。

 

「どうする?」

「どうしよう」

「どうするもこうするも、アマテラスを引きずり出すしかないだろう」

「だから、どうやって!」

天安河原
八百万の神が鳩首会議をしたという天安河原(あまのやすかわら)/宮崎県高千穂市 画像:Muzinabear, CC BY-SA 3.0 , via Wikimedia Commons

 がん首を並べて協議する神々。そのとき、知恵の神であるオモイカネ(思金神)が案を提示した。ちなみに、このオモイカネ、第1回記事に登場した「造化の三神」の一柱、高皇産霊神(たかみむすびのかみ)のご子息。アマテラスたちよりずーっと上の世代だから「物知りな村の長老」というところか。

 

■知恵の神の作戦は「レッツ、パーリー」!?

岩戸神楽

写真のように榊の木に様々な飾り付けを。

画像:桂(春斎)年昌・画「岩戸神楽之起顕」(一部), PD, via Wikimedia Commons
 

 さて、この長老、もとい知恵の神が提案した「アマテラス引きずり出し作戦(?)」だが、記紀によればこんな儀式だった。まずは長鳴鳥(ニワトリ)の鳴き声で悪霊を払い、その間に天の鉄と岩で大鏡と勾玉をつくる。ちなみに、この大鏡と勾玉こそが、のちに三種の神器となる八咫鏡(やたのかがみ)八尺瓊勾玉(やさかにのまがたま)である。

 

 さらに、天香具山(あめのかぐやま)という聖なる山から占いで厳選した榊の木に、さきほどの八咫鏡や八尺瓊勾玉、布帛(キレイな布)で飾り付け御幣(ごへい/注1)をつくると、岩戸の前で宴を開いた──ざっくり一言でまとめると「めっちゃ飾り付けしてパーティーを開いた」というワケだ。

注1/現代では、神主さんが「祓えたまえ~清めたまえ~」と振る和紙で作った飾りが一般的なイメージだが、本来は「神様への捧げもの」全般を指し、古代は麻や木の繊維を使ったという。

 

 先に書いたように、太陽(=アマテラス)は隠れっぱなしで、疫病やら災害やらが団体でやってきて高天原滅亡の危機。にもかかわらず「レッツ、パーリー!」なんて、人気ドラマじゃないが「不適切にもほどがある!」というところ。だが、この宴、さらに不適切さに加速がかかっていくのだ──。