2024年4月12日、時刻は昼の14時過ぎ。夜ともなれば心霊スポットなんて噂も囁かれる上野恩賜公園・不忍池のほとりだが、今は名残りの桜を眺める観光客が行き交っている。そして、その一角にある水上音楽堂には100人近くの行列ができていた──。

 

上野奇々怪々

入場待ちの行列。先頭の方は開場の1時間以上前から並んでいるという。

(以下、一般客の画像はプライバシー保護のため加工済み/編集部)

 数々の有名アーティストやアイドルがステージに上がった水上音楽堂、週末の金曜だけに何かの音楽フェスでも……と思いきや、さにあらず! フェスはフェスでも「怪談フェス」だという。しかも、入場無料、入退場自由というフリ―ダムすぎるイベント! 「いったいぜんたい、何が起こっているんだ???」と会場に飛び込んでみた。

 

怪談フェス「上野奇々怪々」画像【13枚】

 

 

■野外で怪談? しかも入場無料って?

 

 怪談イベントといえば、稲川淳二御大のような例外を除き、ライブハウスやイベントスペースなど比較的“小箱”でやるイメージ。薄暗くて密室感のある空間に同好の士が集まり怪談に耳を傾ける、ある種クローズドな雰囲気も怪談イベントの乙なところ。

 

上野奇々怪々
開場直後の客席へ向かう人並み。これでもまだ落ち着いたほう。

 

 だが、この「上野奇々怪々」は、キャパ1000人近い会場で、しかもオープンエア。まったく正反対の方向性だが、15時の開場とともにお客さんが続々と入っていく。しかも老若男女、デート中らしきカップルからベビーカーを押した女性まで、「あの……これ怪談イベントなんすけど、知ってます?」と訊きたくなるほど客層は色とりどり。

 

 もちろん、MCを務める島田秀平さん、演者のヤースーさん、ハニトラ梅木さん、田中俊行さん、川奈まり子さん、夜馬裕(やまゆう)さん(※出演順)と怪談界のスター怪談師が勢ぞろいで、豪華なキャスティングが魅力的なのはわかる。だが、野外だよ……なぜこんなにお客が集まるの? 気になったのでまずは主催者に話を訊いてみた。

 

■怪談をもっと多くの人に楽しんでほしい

 

 主催者は怪談イベンターの鳴深弁さん(@love5cwと怪談朗読者の道野草太さん(@MICHI_KUSAのお二人。

 

「怪談好きの方はもちろん、いままで怪談イベントに行ったことがない方や、そもそも怖い話は苦手という方にも「怪談カルチャー」というものに、もっと気軽に触れてほしいという想いから、道野さんや胎動LABELのikomaさん(※)と一緒にこのイベントを立ち上げたんです」(鳴深さん)

※イベントのオーガナイズからアーティストのマネジメント、短歌集の刊行まで手掛ける「胎動LABEL」の代表(@ikoma_TAIDOU)詳しい活動はリンクを参照。

 

上野奇々怪々
「上野奇々怪々」主催者の鳴深弁さん。

 

「馴染みのない人にも気軽に怪談を楽しんでほしい」という狙いから「入場無料」「出入り自由」という前代未聞の設定になったのだという。

 

「より多くの方々に怪談を楽しんでほしいという目的で、この水上音楽堂を選んだんですが、不忍池の桜もイベントの今日まで咲いていてくれたし、場所もタイミングもバッチリ合ってちょっと感動しています(笑)」(道野さん)

上野奇々怪々
「上野奇々怪々」主催者道野草太さん。

 

 とはいえ、これだけの会場で、しかもこれだけの出演者が揃うには資金もかかる。そこで二人はクラウドファンディングで資金を募ったのだが、当初目標の金額はわずか5日で達成。さらに、有志のボランティアスタッフも続々と集まりと、全国の怪談ファンや怪談に関わる人々の熱意のすごさを見せつけられた。

 

 さてさて、「説明はいいから、早くイベントの様子を教えてくれよ」という声がそろそろ聞こえてきそうなので、ここから実際の「怪談フェス・上野奇々怪々」の様子をお伝えしていこう(いやもう、会場の熱気もすごかったんですって!)

 

■第一部スタート前から客席は歓声が

 

 16時30分、平日の夕方にもかかわらず、前席はぎっしり、会場は半分近くが埋まりつつある。開演を今か今かと待ち構える客席の前にまず登場したのは、怪談グランプリ2012王者にして数々の怪談ライブやオカルト番組で活躍する名MC、島田秀平さん。

 

上野奇々怪々
島田秀平/芸人、作家、手相占い師、怪談師、都市伝説プレゼンター、YouTuberなど様々な顔をもつマルチオカルトタレント。「稲川淳二の怪談グランプリ」で二度の優勝を果たすなど怪談の語り手としての実力はもちろん、自身のYouTubeチャンネル『島田秀平のお怪談巡り』や『シン・オカルト倶楽部』『初耳怪談FIRST TAKE』などTVで見せるMC力もピカイチ。

 

 歓声があがる中、ステージ中央へと向かう島田さ……あれ? ステージではなくいきなり客席へ向かい、お客さんの手相を見始めている。もちろん、客席は大歓声。主催の二人も想定外だった心憎いファンサービスに第一部スタート前から大盛り上がりに。

 

上野奇々怪々
ステージ上へ向かうと思いきや「今日って『手相奇々怪々』でしたよねw」とファンサービスする島田秀平さん。もちろん、客席は大歓声だ。

 客席の期待が高まる中、開会宣言を行なう方の名前が呼ばれ、再びどよめきが。現在(記事公開の24年4月時点)もamazonでベストセラー1位を更新中の『幽霊インタビュー完全版』の著者、水沢隆広さんが長野から駆け付けてくれたのだった。

 

上野奇々怪々
『幽霊インタビュー完全版』が大ヒット中の水沢隆広さん。