海外では毎年、何人かの日本人が行方不明になる。外務省が発表した海外邦人援護統計によると、2021年(令和3年)に全世界で行方不明になった日本人の数は18人。だが、これはあくまでも家族などに行方不明者として届け出を出された人の数である。
筆者が現在、短期滞在をしているタイでもよく行方知れずになる人の話を聞くことがある。大概は数ヶ月から数年ほどで見つかるケースが多いが、そのまま行方がわからない人も一定数いるという。
■バンコク在住Nさんが語る“怖い噂”
これは、バンコクに住む知人のNさんから聞いた話である。タイに住んで10年以上のNさん。もともとは日本から現地採用で就職したが、就職から3年後、タイ人の奥さんと結婚して現在は奥さんが経営する仕事を手伝っている。
もうすっかりタイに慣れ親しんでいるNさんは、日本から来る友人や昔の同僚に頼まれて、たびたび夜の店を案内することがあった。もちろん、タイで日本人がガイドとして働くことは違法なので無料で請け負っている。
Nさんはタイ語が話せるため、夜の店の女性と外で遊ぶときの交渉の通訳や、トラブルが起こったときに仲介役として入っていた。もともと、飲むのが好きで世話焼きのNさんにとって、同郷の知人と飲む時間は楽しいものであったと語る。
■面倒臭い知人・タハラ(仮)
「でも、そんな中、一人だけ面倒臭い人がいたんです」
その“面倒臭い人”とは、Nさんの古くからの知人のタハラ(仮名)。タハラと知り合ったのはNさんが結婚して間もない頃、昔の友人がタイに旅行に来たときに、たまたま同じ時期に来ていたタハラを紹介されたのがきっかけだった。
「タハラはタイに何回も来ているのにタイ語が一切、話せなかったんです。そんなとき、たまたま僕がカラオケで同席したのですが、その後も図々しく通訳として一緒に来てほしいと頼まれました」
最初は、友人の知り合いということでタハラの頼みを引き受けていたというNさん。しかし、タハラの要求は徐々にエスカレートしていったという──。
■毎度、無料の通訳として呼び出され…
「タイに来る度に何度も呼び出されて、夜の街を案内しろと言ってきたんです。タハラがいつも行くのは“ローカルカラオケ”といって、タイの中でも特にリーズナブルな飲み屋でした。
キャストはタイのイサーンやラオスから出稼ぎに来ている子で、タイ語も方言まじりだったり、カタコトな子が多いです。タハラはタイ語を話せないので、毎回、通訳を頼まれるようになりました」
さすがのNさんも無償で毎回、通訳として呼び出されるのはたまったものではないだろう。さらに、他の日本人旅行者のように飲み代を奢ってくれるのならまだしも、タハラは類を見ないほどのケチだったという。
「ローカルカラオケは基本的にお酒の持ち込みができるので、日本人旅行者は日本から焼酎とかのボトルを持ってくることが多いんです。店ではお酒の持ち込み料のほか、氷やソーダなどの割り物代がかかります。
しかし、タハラが買ってくるのはタイで売っている激安ローカルウイスキー。そんな日本人、いないので女の子達もドン引きしてるんです。しかも、タハラはいつもコーラでウイスキーを割っているのですが、そのコーラすら持ち込みしているんです」
■ドケチなうえに店で“オイタ”を連発
しかも、一度、持ち込んだコーラがなくなったときは、わざわざ自分が住む近所のアパートまでペットボトルのコーラを取りに行っていたほどのドケチぶり。店側からしてもたまったものではないだろう。だが、タハラの”オイタ”はこれだけではなかった。
「店の女の子をすごく触るんですよ。カラオケは連れ出しができるので遊ぶ子が決まったら、お触りも了承してくれるけれど、タハラは連れ出しの子を決めるまで品定めのように色んな子を触りまくるんです。
もしくは、店内で触るのであれば、最低でも100バーツ以上のチップをあげるのがマナーなのですが、タハラは20バーツしか渡さない。さすがの僕も見かねて『もっと、チップを渡してあげてくださいね』と注意しても、頑なに20バーツしか払いませんでした……」
そんな問題をしょっちゅう起こすため、タハラは何軒ものローカルカラオケを出禁になっていたという。連れて行った客が出禁になれば、Nさんの顔も立たない。そんなこともあり、Nさんはタハラと次第に距離を置いていった。