■信心深いタイの夜職女子が恐れる場所とは?
現在、タイのパタヤに短期滞在中のライターのカワノアユミ。以前の記事でも紹介したが、タイは仏教信仰が篤い国として知られており、同時に「ピー」と呼ばれる幽霊や精霊など、スピリチュアルな存在に対する民間信仰が根強く存在する。
私が愛してやまない、パタヤの夜の街で働く女性たちも例外ではない。これはパタヤのバービアで知人と飲んでいるときに女の子達から聞いた話だ。
タイのバービアやゴーゴーバーではチップを払えば女性を店から連れ出して遊ぶことができる。遊ぶ場所は客が泊まっているホテルやコンドミニアムでも可能だ。
しかし、女の子達が「あそこには行きたくない」と声を潜める場所がある。それが、パタヤの中心地にある『X』というコンドミニアムだ。
■バービアの女の子が語る怪異の噂
『X』の隣にはデパートがあり、周囲にはレストランやナイトスポットが並ぶ絶好の立地なのだが、料金は1泊5000円程度とリーズナブル。広いプールもあり、宿泊するには申し分ない条件だが、女の子達が避けたがる理由は、一体何なのだろうか。
「あそこ……ピー(幽霊)が出るって有名なんだよね……」
バービアの女の子は、声を潜めてそう言った。
「私の友達もあそこに泊まったとき、ファラン(欧米人)のピーを見たって言ってたよ」
聞くと、『X』は30階近い高層コンドミニアムで、女の子の話によると”飛び降り自殺”が絶えない自殺の名所だというのだ。
タイでは事件や事故が起きると、その詳細がニュースや新聞に詳しく掲載される。また、遺体の写真が載ることも珍しくない。『X』というコンドミニアムの名前を検索すると、多くの飛び降り自殺のニュース記事が出てくる。しかも、飛び降りるのは主に外国人の旅行者や長期滞在者で、自殺の原因は不明とされている。
このようなニュースもあって、『X』の存在は幽霊を信じるタイ人たちの間で瞬く間に広まったのかもしれない。
■タイ美女に貢いだ挙句捨てられて…?
「タイですからね……夜の店の女の子に騙されたり、散々お金を貢いで捨てられたりする外国人も多いのでしょうね」
そう語るのは、パタヤ在住歴5年の日本人Sさん。筆者もパタヤに何度も来ていまるが、南国のリゾート感や夜の店の楽しさなど、表向きの顔しか知らない。パタヤに来て自殺を考えるなんて、とても信じられない話である。
「私自身も、タイ人の夜の女の子に総額で1千万円以上を貢いだ知人を知っています。彼はその女の子の名義でマンションや車まで買ってあげたそうです。結局、2年もしないうちにその子に捨てられ、貯金はほとんど残っていなかったと聞いています。
今は日本に帰国して、細々と暮らしているそうですが、あのときの知人は本当に死ぬのではないか?と思うほど憔悴しきっていましたね」
■ピー(幽霊)が犠牲者を引きずり込んだ?
そう語るSさんだが、実は彼自身もかつて『X』に宿泊したことがあるという。
「旅行者だったときに何度か泊まったことがあります。部屋にはテラスがあって、そこからパタヤの街やビーチが一望できるんです。タイのコンドミニアムではよくあることですが、テラスの柵が低く、少し足をかけるだけで簡単に飛び降りられそうな作りなんですよね」
Sさんの話から、建物の造りから転落事故が起こりかねないのもわかるが、彼は続けてこんな不穏な体験談を語ってくれた。
「僕も酔っ払ってテラスに出たとき、『もしかして飛べるのでは?』という思いが一瞬、頭をよぎったんです。もしかすると、自殺した人たちもそんな一時的な気の迷いで飛び降りてしまったのかもしれませんね……」
また、バービアで働くタイ人の女の子からはこんなことも……。
「あそこのテラスって、なんか吸い込まれそうな感じになるんだよね。『X』に泊まったことのある女の子達はみんな、それをピー(幽霊)の仕業だって言ってる。飛び降り自殺したピーが、泊まっている人を引きずり込むっていう噂だよ」
■華やかなリゾートに隠された闇の領域
『X』の周囲を歩いてみると、その存在感に圧倒される。これまで一度もその存在に気づかなかったことが不思議に思えるほどだ。目の前には広がるビーチがありながら、『X』だけがどこか暗く、重苦しい雰囲気を醸し出している。
旅行者には一見してわからないパタヤの闇の部分。それを象徴するかのように中心地にそびえ立つ、自殺の名所である『X』。ここに来ると飛び降りたくなるのは本当なのか。それとも、タイ人が信じているようにピー(幽霊)が生きた人間を引きずり込んでしまうのだろうか……。