2024年11月、アメリカで大統領選が実施される。共和党は大統領への返り咲きを目指すドナルド・トランプ前大統領の指名獲得が有力視されている。もし、トランプ氏の再選が実現すれば、同時に再浮上が考えられるのが「メラニア夫人影武者説」だ。

 

メラニア・トランプ

「顔隠しているから影武者」って……。そもそもメラニア夫人が影武者必要なの?

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 2005年にトランプ氏と結婚したメラニア夫人は、スロベニア出身で元モデル。メディアの前に登場する際は大きめのサングラスを着用していることが多く、過去に何度も影武者の使用を疑われてきた。ツイッター(X)では何度も「#FakeMelania」というハッシュタグがトレンド入りしている。

 

【影武者が囁かれる方々の関連写真/14枚】

 

 日本で「影武者/蔭武者」という言葉が生まれたのは戦国時代。武将や大名の身代わりとしてその姿を模倣し、その人物を守ったり、敵を欺く役割を果たした。

 

 写真やSNSなど存在しない時代、有名人であっても、他人がその姿を正確に「本人である」と認識する方法はなかった。そのため、「完璧なそっくりさん」でなくても、影武者は「重要人物の身代わりになる」という役目を果たすことができたであろうことは想像できる。

 

■武田信玄の影武者の哀れな末路

武田信玄

「甲斐の虎」と恐れられた武田信玄には数多くの影武者伝説が。

画像:Public Domain via Wikimedia Commons

 戦国時代最強の呼び声が高い「甲斐の虎」こと武田信玄は自分の死期を悟ると、周辺勢力が武田家に襲いかかることを恐れ、「自分の死を3年間隠せ」と遺言を残した。影武者を務めたのは、11歳年下の弟、武田信廉。信廉はのちに織田信長・徳川家康の連合軍に攻められて捕えられ、殺害されてしまった。

 

■天下泰平を築いたのは徳川家康の影武者?

徳川家康

徳川家400年の礎を築いた「神君・家康」は偽者だった!?

画像:Public Domain via Wikimedia Commons

 信長とともに武田家を滅ぼした徳川家康にも「途中で影武者が入れ替わった」という説が根強く囁かれている。この説は、明治時代の地方官であった村岡素一郎(むらおか・もといちろう)が自身の著書『史疑 徳川家康事蹟』で訴えたものがベースになっている。村岡によれば、

 

「本物の徳川家康は、桶狭間の戦いの数年後に不慮の死を遂げた。そして、まったくの別人である流浪の僧、世良田二郎三郎元信が家康に成り代わった」

 

 のだという。これをヒントにした隆慶一郎の小説『影武者徳川家康』が大ヒットし、ドラマや漫画(なんと作画は『北斗の拳』の原哲夫!)になったことで、この奇説を知った方も少なくないだろう。もし本当ならば、日本の歴史がガラッと変わってしまう大事件だ。

 

■「処女王」エリザベス一世の影武者伝説

エリザベス1世

「大英帝国」の基礎を築いたエリザベス女王〈1世)。

画像:Royal Museums Greenwich, Public domain, via Wikimedia Commons

 イングランドのテューダー朝最後の君主、エリザベス一世(在位:1558年 - 1603年)は、イングランドの全盛期を統治した有名な君主。生涯独身だったことから、ヴァージン・クイーン(処女王)と呼ばれ、のちに繁栄したイギリスの象徴となった存在だ。そのエリザベス一世には、

 

「本物は10歳で亡くなったが、そっくりな少女が見つからず、そっくりな少年が身代わりになった」

 

 という影武者説が囁かれた。これは、エリザベスが結婚せず後継者を作らなかったことが根拠になったと思われる。

 

■ウクライナ侵攻で「プーチン影武者説」が再燃

ウラジミール・プーチン
大統領就任当初から影武者説がたびたび囁かれたウラジミール・プーチン露大統領。 画像:Shutterstock

 ロシアのウラジミール・プーチン大統領には、2000年の大統領就任当初から影武者に関する陰謀論が多数囁かれている。そもそもが泣く子も黙る最強のスパイ機関KGBの諜報員としてキャリアを積み、KGBの後身であるFSB(ロシア国家保安局)の長官を務めたプーチン。いわばインテリジェンス(諜報)のプロ中のプロ、影武者の一人や二人いてもおかしくはない。

 

 実際、「影武者に頼って健康状態の悪化を隠している」「本物はすでに亡くなっている」という陰謀論は数多く唱えられている。また、2010年代には、本物のプーチンと「6人の影武者」を検証する写真などがネット上に出回り、話題になった。ただし、残念ながら(?)影武者を雇っていたことを示す、はっきりとした証拠は現在まで出ていない。

 

 ただし、2022年のウクライナ侵攻以降、「プーチン大統領影武者説」が再燃。メディアに登場するたびに、身長、体型、表情、耳の形などから様々な検証がなされている。ウクライナの政府関係者までもが「現在のプーチンは影武者だ」と発表するなど、プーチン大統領をめぐる陰謀論は混迷を極めている。

 

■親子三代で影武者説がくすぶる金正恩

金正恩

ロシアのロケット発射基地を訪問した際の金正恩。

画像:Kremlin.ru, CC BY 4.0 >, via Wikimedia Commons

 朝鮮民主主義人民共和国の最高指導者、金正恩もまた、たびたび影武者の存在を疑われる政治家だ。なんなら祖父の金日成、父・金正日と親子三代なにかと影武者の噂が立っていた。もはや影武者は金王朝のお家芸なのだろうか?

 

 そもそもが独裁国家のトップとして、表に出る事が少ないうえ、反正恩派の粛正実兄・金正男の暗殺を指示したなど、きな臭い噂の多い「王朝」の独裁者だけに、影武者がいたとしてもおかしくない。また、メディアに登場するたびに体型が著しく変化することが多く、顔の表情や髪型など、イメージチェンジすることも多いため、「金正恩影武者説」は今後もくすぶり続けるだろう。

 

■イラクの独裁者フセイン長男にも影武者説

ウダイ・フセイン

写真中央がウダイ・フセイン。こう見ると気のいいあんちゃんなんですが……。

画像:Public Domain via Wikimedia Commons

 イラクの独裁者、サダム・フセインの長男、ウダイ・フセインには影武者がいたという。ウダイはサッカー選手への激しい拷問や、殺人、ロシアン・マフィアや南米の麻薬組織との取引など、常識外れの悪行三昧で知られる人物だった。

 

 独裁者の息子とはいえ、こうした悪行から世界各国の司法機関から狙われ、また国内の反体制派も多かったため、影武者も必要だったのだろう。そして、後に「私はウダイの影武者だった」と主張したのが、ラティフ・ヤヒア氏。ウダイの影武者を務めた経緯や舞台裏を暴露した彼の著書『デビルズ・ダブル (The Devil's Double)』は注目を集め、2011年には『デビルズ・ダブル -ある影武者の物語-』の題名で映画化された。

 

 なお、影武者作戦もあえなく、ウダイはイラク戦争末期に隠れ家を突き止められ、米軍に急襲され実弟のクサイとともに殺害された。もちろん遺体は影武者ではなく、本人だと発表されたが……。

 

 平凡な一般人が、権力者と見た目がそっくりで影武者として活動しているうちに、本人と入れ替わってしまったという設定の物語は、世界中で描かれてきた。現代社会においても、IDとパスワードなしで本人確認するのは難しいが、過去には本当に入れ替わってしまった例もあるのかもしれない。