■キッチンの床に次々と「顔」が浮かび上がる怪現象
スペイン、アンダルシア自治区のハエン県に、ベルメス・デ・ラ・モラレダという、人口約1500人の小さな町がある。1971年、この街のある家に起こった超常現象によって、この町は世界的に有名になってしまった。
1971年8月23日、この街にあるマリア・ゴメス・ペレラの家で、台所の床に人の顔の形の汚れが発見された。不気味に思ったマリアの夫は息子と共にコンクリートの床を破壊し、新しくコンクリートを注いで消してしまった。しかし、数日後にその顔が再び現れたのだ。
それは明らかに男性の顔で、口髭のような黒い線も確認できた。さらに次の日、新しい顔がキッチンの床や家の廊下に出現。その後、この家の壁や床には様々な顔が現れたり消えたり、移動したり、別のものに変身したりするようになったのだ。
■世界中から観光客と研究者が殺到
最初の「顔」の発見以来、この家では顔に見えるシミが何年にもわたって1000以上が出現することになる。同年11月に地元新聞に取り上げられるや、怪現象「ベルメスの顔」として一躍メディアの注目を集め、当時のスペインの三大新聞が肯定派・否定派に分かれ大論争を繰り広げることになった。
「ベルメスの顔」がスペイン国内を飛び越え、世界中から注目を集めるようになると、物好きな観光客が大挙して訪れるようになった。次々と顔が浮かび上がる怪現象の家「カサ・デ・ラス・カラス」として週末ともなると1万人近くの人が訪れたこともあった。
また観光客だけでなく、世界各国から超常現象研究者や専門家がこの家を訪れ、さまざまな角度からこの現象を検証した。なかにはCSIS(スペイン国立研究評議会)のような権威ある研究機関もあったが、謎は解明されないまま。さらに、研究者の一人で超心理学の専門家は、マリアが思考をイメージに変換できる能力(念写能力)を持っていた、と主張。
また、別の研究チームによる地質学調査の結果、この家は13世紀の墓地の上に建てられていたことが判明した。はたして、古代からこの土地に残る死者の怨念を、マリアがキャッチして家のあちこちに具現化させたのだろうか……?
■次々と疑惑が噴き出すものの…
もちろん、その一方で発見当初から疑惑の声も上がっていた。たとえば、「マリアの息子が硝酸塩と塩化銀で絵を描いた」と主張する科学者や専門家も数多くいた。また、 1980年代以降、この家に現れる「ベルメスの顔」は、スタイルが変化し、より子供っぽくシンプルなタッチになっていった。こうした「画風」の変化もでっち上げ説を後押しする一因だった。
こうして、「ベルメスの顔」の真実性を擁護するメディアもあれば、詐欺だと断罪するメディアもあり、現在まで数十年に渡り双方の立場で議論が繰り返されてきた。なお、真贋はさておき、この家に現れるものが「顔である」という点においては、奇妙なことに双方意見が一致していたようだ。
論争に決着が着くのを待たず、2004年2月、家主のマリア・ゴメスが死亡。残念ながら「カサ・デ・ラス・カラス」は閉鎖されてしまい、入場できなくなってしまった。ただ、彼女が亡くなった直後、彼女が生まれてから住んでいた別の家に新しい顔が出現し、その後1年間キッチンを封印した後に17個の「新しい顔」が出現したという。
その一方で、2007年には『カサ・デ・ラス・カラス』というタイトルの暴露本が出版され、マリア・ゴメスと家族が入場料、写真の販売、報道に関する権利の販売などで、多額の利益を得てきたことや、「ベルメスの顔」がマリアたち一家によって商標登録されていたことなどが明かされ、遺族が批判を浴びた。
その後も、2014年にスペインのテレビ番組が化学者や法医学者の協力のもと、「ベルメスの顔」が現れる原因を調査したが、「塗料で描かれたものではない」と結論付けたものの、顔が出現する理由については解明できなかったという。
マリア・ゴメスとその家族が世界中をペテンにかけた詐欺事件なのか、本当の心霊現象なのか、真実はいまだに謎のままだが、「ベルメスの顔」は一部の研究者にとって「20世紀で最も重要な超常現象」として、語り継がれている。