■空前の「呪術ブーム」の令和ニッポン
AI(人工知能)が生活の隅々まで浸透し、SNSで世界中の人とつながり、ドローンが空を飛び交う令和の日本。昭和の時代のSFが当たり前の現実となったこの国で、なぜか「呪術」がブームだ。
週刊少年ジャンプで連載中の『呪術廻戦』は累計発行部数7000万部! 陰陽師の代表格、安倍晴明の若き日を描いた映画『陰陽師0』も興行収入10億円を超える大ヒット。「呪術」や「陰陽師」にまつわる書籍も数々出版され、あの別冊太陽まで呪術特集を組む状況だ。
そんな中、当電脳奇談編集部が注目するのがこの一冊、『呪術の世界史 神秘の古代から驚異の現代』(ワニブックス刊)。タイトルどおり、紀元前の古代エジプト、古代ギリシア時代から、今まさに世界中で現在進行中の呪術にまつわる事件まで、古今東西の「呪術事件史」をまとめた一冊だ。
■古代から現代まで人類の歴史は呪術まみれ!
とにかく序章から衝撃的な記述が続く。時折、ネットニュースやX(旧Twitter)のタイムラインで見かけた読者もいるかもしれないが、アフリカ中部の各国でアルビノ(先天性色素欠乏症)の子どもたちが「呪術儀式の素材」として拉致・殺害されている。
また、インドでは今なお「魔女狩り」で年間100人以上の女性が殺害されていたり、2021年の軍事クーデター以来、混迷が続くミャンマーでは軍部の権力闘争の裏で呪術師が暗躍しているなど、2020年代のまさに今、現在進行形の呪術にまつわる悲劇が紹介されているのだ。
もちろん、悲劇的で残酷な事件の項目ばかりではない。続く第1章からはグーンと時を遡り「古代文明 神秘の呪術史」と銘打たれ、古代ギリシアやエジプトの歴史書や旧約聖書などに記された呪術の歴史を、膨大な参考文献をもとに解説。
さらに、「中国・アジア」「ヨーロッパ」「日本」と、古今東西の呪術にまつわる歴史や事件史が章ごとにまとめられている(ちなみに各章のどの項目も3~5ページほどでコンパクトにまとまっているのでどこから読んでもOK。興味のあるエリアの歴史から読み進めるのもオススメだ)。
本書を読めば、いかに人類の歴史が“呪術まみれ”であるかわかるというもの。呪術はブームでもなんでもなかったのだ……。
■呪術のことならこちらもオススメ
さらに、最終章「近現代に起こった呪術史」は電脳奇談編集部的にオススメの一章。ナチス・ドイツのアーネンエルベ研究所の謎から、絶対的なロシアの最高権力者プーチン大統領がNATOや政敵よりも恐れていたシベリアのシャーマンや、お隣・韓国の2022年大統領選で勃発した呪術騒動などなど、オカルトニュース好きにはたまらないラインナップだ。
まさに古今東西の呪術にまつわる歴史や事件をギュッとまとめたこの一冊の著者、島崎晋氏は、立教大学史学科を卒業後、歴史雑誌の編集を経て数々の著書を執筆している。お手軽なまとめサイトみたいな便乗本も少なくない中で、巻末の90冊に及ぶ膨大な参考文献リストを見れば、いかにこの本が丹念に編まれ、中身が詰まった力作かおわかりいただけるだろう。なんとなれば、呪術に興味があるという読者はこのリストを読むだけでも勉強になると思う。
そして、電脳奇談編集部的には、同じ著者の書籍でもう一冊オススメがある。実は一昨年2022年の大河ドラマ『鎌倉殿の13人』関連の記事をまとめる際に、さんざんっぱら参考にした(あくまで参考です。パクッてはいません!)『鎌倉殿と呪術 怨霊と怪異の幕府成立史』(ワニブックス)だ。
タイトルだけ見るとお堅い学術系の本と思いかねないだろうが、こちらも本書と同じく、鎌倉時代における呪術の事件史や、幕府方と朝廷方に分かれた陰陽師のエピソードなど、読み物としてさらには創作の参考資料としてうってつけの一冊だ。日本の呪術史をさらに深く知りたいという方は、ぜひこちらも併読がオススメだ。