推薦図書第一弾で「令和の日本は呪術ブームか?」と書いたが、それどころではない。全国各地で夜ごと怪談イベントが開催され、インターネットやSNS上では怪談や都市伝説を語る配信者が無数に存在。呪物を集めた展覧会には若者(特に女性)が押し寄せ、テレビでフェイクドキュメンタリーを放送すればX(旧Twitter)でトレンド入りする状況。ホラー・ジャンルすべてが大賑わいとなっているのだ。

 

 ただ、あまりに多種多様に広がってしまった令和日本のホラー分野。正直、「どこから読んだらいい?」「自分の趣味に合うホラーってなんだろう?」とお悩みの方も少なくないはず。そこで電脳奇談推薦図書企画の第二弾としては、この悩みにお答えする4冊を一挙ご紹介。

(なお、今回は人名が多数登場なので敬称略としています。どうかひとつご寛恕のほどを!)

 

「ジャパン・ホラー」という大密林を歩く地図

 まず一冊目は、実話怪談、フェイクドキュメンタリー、ホラー小説、漫画にゲーム、ファウンドフッテージ(※1)など、さまざまなジャンルが奇怪な植物のように絡み合い、生い茂る令和日本のホラー業界というジャングルを探検するのにうってつけの書籍『ジャパン・ホラーの現在地』(集英社)。

※1 本来は「撮影者が行方不明などで埋もれていた未編集の映像(Footage)」という意味のモキュメンタリ―の設定だが、近年、広義では映像に限らず、怪文書や執筆者が行方不明の日記など文書や画像も指している。

 

 著者は『現代怪談考』(晶文社)や『一生忘れない怖い話の語り方』(KADOKAWA)などで、「怪談とは? さらに恐怖とは何ぞや?」を徹底検証してきた吉田悠軌。怪談に限らず、ホラーやオカルト全般に対する徹底した調査力と博覧強記な知識は月刊ムーの連載でも発揮されており、“ジャングルの案内人”としては間違いない人物だ。 

 

 そんな著者が、「ジャパン・ホラー」各ジャンルのトップ・クリエイターや識者12人を招き、インタビューをメインにそれぞれの分野での「ホラーをいかに表現し、伝えるか」を深堀していく対談・論考集が本書だ。登場するのは、放送時にX(旧Twitter)でトレンド入りした『イシナガキクエを探しています』でタッグを組んだ大森時生(テレビ東京プロデューサー)と寺内康太郎(映像作家「フェイクドキュメンタリーQ」など。後述)をはじめ、ホラー小説や実話怪談ジャンルから作家の澤村伊智黒史郎、モキュメンタリ―作品が話題の背筋、著者との共作も話題の怪談配信者・煙鳥など、目次を見るだけで「おおっ」と声が上がる豪華なラインナップ。正直、それぞれの紹介だけで1回の記事が埋まってしまうほど濃いメンバーだ。

 

 ほとんどが対談形式なので、スッと内容が入ってくる読みやすさや、好きなジャンル、テーマのクリエイターの項から読めるアクセスの良さが魅力。それ以上に編集部注目の見どころは、それぞれとの対談や鼎談の中で明かされていく、クリエイターたちがホラー作品を生み出す源流となった過去の作品との出会いや原体験。いわばこの大密林の「土壌」となったものが語られている点だ。

 

 さまざまなジャンルのホラー作品を楽しむ方だけでなく、これからクリエイターとして関わりたい方にとっても、必読、いや手元に置いて何度も読み直し発想のタネが得られる一冊といえるだろう。

 

ジャパン・ホラーの現在地
ジャパン・ホラーの現在地

実話怪談、フェイクドキュメンタリー、ホラー漫画に民俗ホラーなどなど、多ジャンルで熱い盛り上がりを見せる、令和の「ジャパン・ホラー」。各ジャンルのトップ・クリエイターや識者と、怪談・オカルト研究家がそれぞれの「恐怖」の源泉や伝え方などを語り合う論考集。

100年後の読者に贈る令和の怪談大百科

「怪談は100年ごとに流行する」

 とは、アンソロジスト、文芸評論家にして、怪談専門誌『幽』の編集長だった東雅夫の言葉だが、『雨月物語』『耳嚢(みみぶくろ)』『東海道四谷怪談』が生まれた江戸時代後期、泉鏡花岡本綺堂らが傑作怪談を生んだ明治・大正期に続き、今また、まさに怪談文化が花開いている。おそらく、100年後の怪談ファンから見れば、令和の今はかなり魅力的な時代に映るだろう。

 

 そんな100年後の読者はもちろん、リアルタイムで怪談を楽しんでいる方にオススメなのがこの一冊。自身も怪談作家、怪談師として活躍する川奈まり子が、当代きっての怪談のプロフェッショナル18人に取材した実話怪談短篇集『怪談屋怪談 怖い話を知り尽くした18人が語る舞台裏と実体験』(笠間書院)だ。

 

 ひと言に「怪談」といっても、著者が“前口上”で述べているように、実話から創作、古典怪談にホラー小説(怪談文芸とも)や、最近ではSFの中にも確かに怪談的な作品もあり、とにかく懐が広い世界。さらに、読み物としての怪談なら「怪談作家」、口演、ライブや配信なら「怪談師」、映像作品を生み出す監督もいれば、学術的に研究する方、さらには呪物や怪異そのものを蒐集する方と、アプローチもさまざま。

 

 こうした分野もアプローチも多種多様なプロたちを「語る」「書く」「集める」「撮る」「占う」「受け継ぐ」「出る」の各章ごとに招き、彼/彼女らが体験した怪異譚を著者が実話怪談としてまとめたものだが、面白いのはその仕立てだ。

 

 例えば実話怪談の金字塔『新耳袋』シリーズの著者・中山市朗や、ファン待望の単著『怪談蒐集録「過呼吸」』が出たばかりの村上ロックなど、それぞれが一流の書き手/語り手なのだが、今回は敢えてインタビュイー(取材される側)として登場。そこで語られた体験談を、著者・川奈まり子の端正な文体でまとめる。それぞれが直に語り、書いたものと比べるのも面白いだろう。

 

 また、この本で登場する方々に「初めてお会いした」という読者にはうれしいことに、それぞれの紹介記事にはオフィシャルサイトや公式YouTubeチャンネルなどへリンクするQRコードが付されている。「この人の怪談を聞いて/見てみたい」「もっと知りたい」と思った方は、ぜひ、アクセスして、どんどん「怪談沼」にハマってほしい。100年後の読者に向けたアーカイブとしても秀逸な仕掛けの一冊だ。

 

怪談屋怪談 怖い話を知り尽くした18人が語る舞台裏と実体験
怪談屋怪談 怖い話を知り尽くした18人が語る舞台裏と実体験

ひと言で「怪談」と言っても、「語る」「書く」「撮る(映像化)」など表現方法も様々なら、その中身も実話から創作、心霊からヒトコワ、古典に都市伝説系など百花繚乱。そんな怪談業界のプロフェッショナル18人に、自身も「ルポルタージュ怪談」の名手である川奈まり子が取材。それぞれが怪談に魅入られた経緯や恐ろしい実体験までまとめた一冊。