■タイに存在する「日本人村」の実情
現在、タイのパタヤに短期滞在しているライターのカワノアユミです。外務省のHPによると、2023年10月時点でタイに在留している日本人は7万2308人にも及び、多くの日本人がこの地で生活している。
私が住んでいるパタヤにはリタイアした人々が多く、煩わしい人間関係に悩むことはあまりない印象だ。しかし、日本企業の駐在員が多く暮らすエリアには、日本人同士が集まる「村」のような集合住宅が存在し、その中では複雑な人間関係に悩む人も少なくないという。
■駐在員妻Aさんを悩ます日本人村の掟
「私の住んでいるアパート、ゴミ出しのルールがすごく厳しいんです」
数年前、タイのある地域にある日本人向けコンドミニアムに住んでいる女性、Aさんからこんな話を聞いた。彼女は夫の赴任に伴い、タイへ引っ越してきた駐在員の妻だ。私がバンコクに住んでいた時期に、旅行で訪れていたAさんと知人を通じて知り合い、少し親しくなった。
Aさんの話すコンドミニアムとは、日本でいう分譲式のマンションだ。Aさんは、駐在員としてタイに赴任している夫と共にそこで生活していると聞いた。
コンドミニアムでは清掃サービスが付いていないため、掃除やゴミ出しは自分たちで行なうのが一般的だ。ただ、タイではゴミ出しのルールが日本ほど厳しくなく、燃えるゴミやビン・缶を分別しなくても回収される。にもかかわらず、Aさんが「ルールが厳しい」とこぼすのはなぜなのだろうか?
■「監視と噂話」で日本人村を支配するボス妻
「コンドミニアムに住む日本人の中にボス妻のような女性がいて、その人が厳しく注意してくるんです。子どもの教育に良くないといって、ゴミの分別がきちんとされているかをわざわざ監視しているんです」
確かに、駐在員がいずれ帰国することを考えると、日本のゴミ出しルールを子どもに教えておく必要性も理解できる。しかし、Aさんはその後、声を潜めてこう続けた。
「……それだけじゃないんです。コンドミニアムの近くにはスーパーや子どもたちが通う学校もあって、生活範囲が限られているんです。みんなが同じ空間に常にいるため、噂話もすぐに広まってしまう。その噂をいち早く広めているのがそのボス妻なんです」
そう話すAさん自身も、偶然にも自分の噂を耳にしてしまったことがあるという。その内容は、夫がどこの企業に勤めていて、給料がどれくらいかという、いわゆる駐在員の妻同士の下世話な噂話だった。
タイの駐在員日本人コミュニティーでは、このようなことがよくある。環境に慣れてしまえばラクだし、気にしなければ済む話なのだが、どうも日本人は集団の中にいると自分の評判や立ち位置を気にしてしまうようだ。ここまでは、Aさんには悪いが「よくある話」と思っていたのだが……。