「現代社会に『呪術』が実在したら?」というのが人気漫画『呪術廻戦』の世界観だが、実は漫画でも昔ばなしでもなく、現実の社会でも、呪術を巡る事件はいまも起こり続けている。なかでもおぞましいのが、アフリカにおける「アルビノ狩り」だ。ニュースで観た読者もいるかもしれないが、その残酷な実態をご紹介しよう。
※本記事は、島崎 晋:著『呪術の世界史 -神秘の古代から驚愕の現代-』(ワニブックス)より一部を抜粋編集したものです。
■バラバラ殺人でパーツを高値で取引!?
世界の一部地域では、マイノリティーがマイノリティーという理由だけで迫害を被り、死者が出ることも珍しくはない。
目障りだから殺す。生意気だから殺す。殺したいから殺す。理由はどうあれ、殺人が目的化していることは間違いない。
だが、アフリカのサハラ砂漠以南では、これとは性格を異にする誘拐や殺人が増加傾向にある。被害者は「アルビノ」で、犯人たちの目的はアルビノの肉体をカットし、高値で売りつけることにある。
■2万人に1人の難病「アルビノ」とは?
アルビノは先天性の遺伝子疾患の一つで、日本の医学界では先天性色素欠乏症と呼ばれる。生まれつき肌や髪の毛の色を構成するメラニン色素が少ないため、全身の肌が白く、日焼けだけでも命取りになりかねない。2万人に1人の確率で生まれることから、日本でも国の難病に指定されている。
白人の世界に生まれる分にはあまり目立たないが、肌色が濃い黒色ばかりの人の多いサハラ砂漠以南のアフリカでは嫌でも目立つ。
目立つだけならまだしも、アルビノの肉体を使って呪術の儀式を行なえば、富と名声を得られるとの俗信は、笑って済ませられるものではなかった。
■実の父が息子をカトリック司祭が信者を…
参考までに、パリに本拠地を構えるAFP(フランス通信社)がここ数年に報じたアルビノに関する記事の見出しを並べておこう。AFPは世界三大通信社の一つで、世界最古の通信社でもある。
「アルビノの5歳児、頭部と両脚のない遺体で発見 呪術目的か コンゴ」(2023年2月3日)
「アルビノの子供3人の売却計画、父親とおじ逮捕 モザンビーク」(2022年7月27日)
「アルビノ男性殺人事件、カトリック司祭に禁錮30年 マラウィ」(2022年6月28日)
「コロナ禍でアルビノの殺人増加 国連報告書」(2021年7月31日)
コンゴ民主共和国の事件は、ルワンダおよびブルンジと国境を接する南キブ州で起きたもので、同国のアルビノ支援団体によると、同州内では2009年以降、同様の状態で遺体となって発見されたアルビノが18人に上り、それ以外にもアルビノの墓10基が荒らされ、アルビノの誘拐未遂も22件確認されているという。
■被害者の大半は子供。事件の背後には…
モザンビークの事件では、父親とおじが9歳から16歳の子供3人を隣国のマラウィに連れていき、約4万ドル(約600万円)で売る計画を立てたとされ、マラウィの殺人事件で逮捕された司祭には禁固30年の有罪判決が下された。
国連の報告書はこの3つの事件より前に発表されたものだが、同じ記事のなかで、アルビノの人権状況に関する国連の独立専門家が、事件の増加に関して、
「コロナ禍で貧困に陥った人の一部が手っ取り早く金をもうけようと呪術に頼ったため」「さらに悲劇的なことに、被害者の大半は子どもたちだ」
と指摘しており、事件の背後に潜む闇が途方もない深さであることを感じさせる。
──第1回・了。続く第2回は「プーチンが恐れるシベリアのシャーマン」(9月27日18時公開)
島崎晋・著 ワニブックス・刊/定価:本体1500円+税
島崎 晋 (しまざき すすむ)
1963年、東京生まれ。立教大学文学部史学科卒業。専攻は東洋史学。在学中、 中国山西省の山西大学に留学。卒業後、 旅行代理店勤務を経て、出版社で歴史雑誌の編集に携わる。現在はフリーライターとして歴史・神話関連等の分野で活躍中。 最近の著書に『図解眠れなくなるほど面白い戦国武将の話』(日本文芸社)、『劉備玄徳の素顔』 (MdN 新書)、『どの 「哲学」と「宗教」が役に立つか』 (辰巳出版)、『鎌倉殿の呪術 鎌倉殿と呪術 - 怨霊と怪異の幕府成立史』(ワニブックス)などがある。