2024年9月27日、事実上、我が国の総理大臣が決まる自民党総裁選では石破茂が5度目の挑戦で遂に総裁に選ばれた。この自民党総裁選は、昔から「少なくとも1人当たり数百万の実弾(現金)が飛び交う」と噂されていたが、お隣の国、韓国は飛び交うもののレベルが数段上だった! 大統領選やその後の政局のたびに「呪術」が飛び交っているというのだ! 日本でも人気の韓国ホラーでは「呪術」は定番ネタだが、それを地でいく驚くべき実態とは?
※本記事は、島崎 晋:著『呪術の世界史 -神秘の古代から驚愕の現代-』(ワニブックス)より一部を抜粋編集したものです。
■韓国大統領選で起きた「呪術事件」
西洋の魔術がそうであるように、東洋の呪術も黒呪術と白呪術の2つに分類可能で、タイの呪術医療モータムは明らかに白呪術である。
だが、同じく東アジアの韓国では、これとは真逆の黒呪術が政争の道具として使われており、次に挙げるのは2022年3月9日の大統領選挙投票日を目前にして、SNS上に挙げられた書き込みである。
「尹錫悦(ユン・ソクヨル/当時の野党統一候補で現大統領)に呪いをかける」
「罰を受けるべき人間には五殺で罰を下したい。八つ裂きにしなければ」
なんとも物騒な書き込みだが、まず、注目したいのが「五殺」という言葉。これは20世紀初頭まで続いた朝鮮王朝時代、主に逆賊(謀反人)に対して執行された、殺害後に頭・胴体・手足をバラバラにする処刑法である。最初の書き込みには、鋭利な道具を突き刺された藁(わら)人形の写真も添付されていたから、呪術行為であるのは明らかだった。
■野党代表に「子孫断絶の黒呪術」が!
この忌まわしい記憶がようやく消えかけた2023年3月、再び事件が起きた。
現野党「共に民主党」の李在明(イ・ジェミョン)代表の両親の墓が何者かにより毀損(きそん)されたのである。
3月14日付けの『TⅤ朝鮮ニュース』日本語版では、「何者かが亡父の墓の盛り土を傷つけ、特定の漢字が書かれた石を周辺に埋めていた」「子孫が絶滅するように呪う黒呪術」という李代表のコメントが報じられた。
また、同日の韓国紙『中央日報』日本語版では、「韓国野党代表の両親の墓が毀損……〈亡くなった両親まで侮辱〉」という見出しで、
「私のせいで、亡くなった両親まで侮辱されるので申し訳ない」
という李代表のコメントと併せて、彼が同日午後フェイスブック上に発した
「意見を聞いてみると、一種の黒呪術で、墓の四方に穴を掘って凶物などを埋める儀式、墓の穴を塞いで子孫や家門が滅びるように呪う『凶魅(きょうみ)』(呪術の一種)だという」
という書き込みを紹介。さらには「共に民主党」のイ・ギョン常勤副報道官による
「李代表の両親のお墓の四方を暴き、奇妙な文字が書かれた石を誰かが埋め込んだ。封墳の上を足で踏みつけ、重い石をのせた」「ひどいこと」
というメッセージも掲載された。
■死刑を覚悟で呪術を掛けたのは誰だ?
今度は「凶魅」という、日本人には耳慣れない言葉が登場する。
『TⅤ朝鮮ニュース』では「黒呪術」と表現され、『中央日報』では「凶魅」と報じられ、なおかつ「呪術の一種」という説明まで加えられている。
朝鮮王朝の時代であれば、呪詛は立派な犯罪で、証拠が挙がれば、呪詛の依頼者と実行者には厳罰が下された。
現在の法律では器物破損の罪にしか問えないが、犯人たちを特定できれば、彼らを社会的に抹殺することはできる。たとえ特定できなくとも、大衆の同情を買えるのは間違いない。
だからこそ、李代表も憤懣(ふんまん)をあらわにするのでなく、悲しみと困惑を前面に出したのだろう。背任と収賄の容疑で追及され、辞任を求める声も高まっている状況だったから、なおさらである。
法的には軽犯罪でも、韓国の庶民感覚では死刑相当の重大犯罪。犯人側もそれを承知のはずだが、分別や冷静な判断力がかなぐり捨てられるほど、政敵への憎悪が高まっていたのだろう。
──第3回・了。続く第4回は「室町時代に『デスノート』が実在!?」(9月29日18時公開)
島崎晋・著 ワニブックス・刊/定価:本体1500円+税
島崎 晋 (しまざき すすむ)
1963年、東京生まれ。立教大学文学部史学科卒業。専攻は東洋史学。在学中、 中国山西省の山西大学に留学。卒業後、 旅行代理店勤務を経て、出版社で歴史雑誌の編集に携わる。現在はフリーライターとして歴史・神話関連等の分野で活躍中。 最近の著書に『図解眠れなくなるほど面白い戦国武将の話』(日本文芸社)、『劉備玄徳の素顔』 (MdN 新書)、『どの 「哲学」と「宗教」が役に立つか』 (辰巳出版)、『鎌倉殿の呪術 鎌倉殿と呪術 - 怨霊と怪異の幕府成立史』(ワニブックス)などがある。