2024年10月15日(現地時間)、NASA(米航空宇宙局)が重大発表を行なった。その内容をかいつまむと、「太陽の活動が”極大期”に入り巨大な規模の太陽フレアが続発することになる」という警告だった。
極大期だの太陽フレアだの、耳慣れない言葉に「警告って何が危険なの?」と思う方も少なくなかっただろう。しかし、2万人近い死者・行方不明者を出した東日本大震災や、ここ最近、急速に危険性が指摘されている南海トラフ地震以上に、世界中で危険視されている自然災害を引き起こすのが、この「太陽フレア」なのだ。
■太陽フレアの威力は水爆100発分
「太陽フレア……昔、理科の授業で聞いたような」
と、いま一つピンとこない方のためにザックリ説明しよう。そもそも太陽は「水素→ヘリウム」という核融合反応を続けて高エネルギー(光や熱)を生み出し続ける天体。その活動のなかで時折起こる爆発現象が「太陽フレア」で、規模の大きなものは水素爆弾100発分にもなるという。
太陽フレアでは爆発の際に、高エネルギーの荷電粒子(注1)や電磁波(主にX線)を大量に放出する。これが約1億5000万キロ離れた地球まで、最短わずか8分ほどで到達。ただし、地球には電離層というある種のバリアがあるので人体に直接的な影響はないという。
注1/イオン化した原子や、電荷を帯びた素粒子のこと。「機動戦士ガンダム」などに登場する「荷電粒子砲」でおなじみの方もいるだろうw
とはいえ、電離層に悪影響を与えることで通信に障害が出たり、軌道上の人工衛星や宇宙飛行士に深刻な被害を与えることは確かだ。ただ、問題はここからだ──。
■太陽が「プラズマ弾」を発射?
それは太陽フレアに伴って発生する現象「コロナ質量放出(CME)」だ。太陽の表面はプラズマ化した大気=コロナで覆われているが、太陽フレアの爆発により(注2)、このコロナの一部が太陽コロナ中のプラズマが突発的に噴出する現象「コロナ質量放出」が起こる。
注2/太陽フレアを伴わないCMEも観測されており、メカニズムはまだ謎が多い。
10億トンほどのプラズマの塊が秒速3500キロ(注3)で飛び出し、これらが放出される際の威力は水素爆弾10万個~1億個と同程度だと考えられている。もはや、「プラズマ爆弾」いや「プラズマ星間ミサイル」と言っていいだろう。実際、「これが直撃したら一発で地球文明は滅びる」と警告する専門家もいる。
注3/2012年にバークレー天文台が観測した史上最高速の記録。地球に近づくとスピードは急速に落ちるという。
太陽フレアが放出した荷電粒子や電磁波以上にCMEが地球上に到達すると(かすめるだけでも)、猛烈な地磁気の乱れが起こり、これを「磁気嵐」と呼ぶ。そしてこの磁気嵐は、
・スマホのネット接続障害
・防災、消防、警察、タクシー、列車などの無線に影響
・航空機の運転に障害
など、現代社会のインフラほぼすべてに甚大な影響を及ぼすという。
■太陽フレアによる災害の記録
ザックリ深刻な被害が起こる「仕組み」はこんな感じ。ただ、「甚大な被害」と言われても具体的にイメージしずらいだろう。しかし、過去には甚大は被害を受けた実例が数々存在するのだ。以下、有名なものを挙げていこう。
●1859年の磁気嵐(キャリントン・イベント)
イギリスの天文学者リチャード・キャリントンとリチャード・ホジソンによって世界で初めて磁気嵐が観測されたのは1859年(日本で言えば江戸時代末期の安政6年)。昼間のように明るくなるほどのオーロラが発生した。史上最大と言われるこの磁気嵐と近い規模のものが再び起こった場合、送電線がダウンするなどして、1兆ドル(約150億円)以上の被害が発生すると推測されている。
●1989年の磁気嵐
まず3月に、カナダやアメリカが磁気嵐に襲われた。オーロラが発生し、電波障害が起こり、アメリカ合衆国のラジオ局「ラジオ・フリー・ヨーロッパ」の放送が突然断絶。この放送はソビエト連邦へ放送されていたため、冷戦下の当時、ソビエト政府によって放送が妨害されたと考えられていた。また、いくつかの人工衛星は、何時間にもわたって制御不能に陥った。
さらに、カナダ・ケベック州では9時間にわたり大規模停電が発生。600万人が影響を受けた。復旧には数ヶ月を要した。なお同年8月には、別の磁気嵐が発生。カナダ・トロントの株式市場が売買停止に追い込まれた。
●1990年代の磁気嵐
1991年、日本の放送衛星「ゆり3号a」の太陽電池が磁気嵐の影響で劣化。一部の衛星テレビチャンネルが放送休止に。1994年、ノルウェーで開催されたリレハンメル・オリンピックの際には、磁気嵐により数十分間テレビ中継が中断した
●2000年代の磁気嵐
2000年、日本の観測衛星「あすか」が磁気嵐で制御不能になり落下して運用を終えた。また2003年にはスウェーデンで大規模停電が発生。約5万人に影響した。
2017年には、日本国内でもカーナビ、スマートフォンなどの一般のGPS測位方式において誤差が発生。さらに遠く離れたカリブ海のハリケーンの緊急災害対応を行っていた関係者の短波通信が混乱した。また、2022年にはアメリカのスペースXが、太陽フレアの影響で打ち上げた衛星を制御できなくなり、40基が消失した、と発表した。
2025年、磁気嵐で文明崩壊?
一度、記事の冒頭に戻ろう。NASAが発した警告の中で「太陽の活動は極大期に入り」とあったが、そもそも太陽の活動は11年周期で活発化と停滞化を繰り返している。
そして、現在は極大期に向かって活発になってきており、事実、2024年5月には太陽フレアの影響で、日本や米・フロリダ州でもオーロラが観測された。そして、NASAは「太陽活動の極大期のピークは2025年の後半」と予測している。つまり、磁気嵐が続発するピークも来年(2025年)の夏以降まで続くとみられるのだ。
スマホやインターネットの普及など、現代社会はかつてないほど「電気」や「電子機器」に依存している。欧米社会では急速にガソリン車からEV車への切り替えが進んでおり、大規模な太陽フレアや磁気嵐が発生すると、海から遠く離れた内陸部でも、市民社会や交通網が破壊される危険性があるのだ。
昨今、某漫画家の「2025年7月に日本を大災害が襲う」という”予知(予言?)”と絡めて、「南海トラフ」発生の危険性が騒がれているが、それ以上に太陽フレア発生に注意し、電子機器に依存する生活を見直したほうがいいかもしれない。