教科書が教えてくれない科学に「軍事技術」がある。戦争と科学は切っても切れないが、日本の教育は一切触れない。軍事技術に科学がどのように使われたかを知ることで、初めて科学の軍事利用を止められると思うのだが……軍事と科学の愚かで怪しい関係を紹介しよう。

 

■とある帝国陸軍の超電磁砲?

登戸研究と秘密戦の全貌を知ることができる明治大学の『明治大学平和教育登戸研究所資料館』

 軍の秘密研究所! 少年のハートにヒットするパワーワードだが、わが日本にも秘密研究所は実在した。

 

 第九陸軍技術研究所、現在の神奈川県川崎市北部の登戸に建設されたため、通称「登戸研究所」と呼ばれた軍事研究所である。登戸研究所は長らく存在が秘匿されていた文字どおりの秘密研究所だった。なぜかといえば、諜報に関する技術開発と超兵器の開発を行なっていたからだ。

 

 超兵器である。秘密研究所といえば超兵器。ナチスのV2ロケット、アメリカのマンハッタン計画、ショッカー研究所ならライダーマン、ガンダムならフラナガン機関のサイコミュである。

 

 登戸研究所にそんなものがあるのか? ある! まずは電磁砲だ。登戸研究所では、アニメ『とある科学の超電磁砲(レールガン) 』の電磁砲を研究していたのだ。当時は電気投擲砲(でんきとうてきほう)という名前で、開発コードは「と号兵器」である。投擲だから「と」号だ。安直? いいのだ、わかりやすさが大事だ。

 

■登戸が誇る5つの電磁兵器

 

登戸研究所では中国経済をかく乱するため、偽札も作られた。偽札の完成度は高かったが、トランクに積めて諜報員が中国まで運ぶという効率の悪さに作戦はほぼ失敗

 電気投擲砲とは、いわゆるレールガンのことで、2020年代の現在も米中、そして日本も開発競走に血道をあげている(なお、アメリカは2022年に開発中止を発表)。つまり、時代を100年先取りした取り組みだったのだが、現在は電子レンジなどに使われているマグネトロンという高周波発生装置の高出力化ができず、必要な電力も確保できないまま終戦を迎える。

 

 この他にも、当時、陸軍が研究対象とした電磁兵器は5種類あったそうだ。以下、順に見ていこう。

 

科く号:怪力放射線を人体又は電気装置等に作用せしむる装置
科う号:電気雲により人体又は電気装置に作用し又は爆薬を爆発せしむる装置
科き号:怪力光線により敵を眩惑せしむる装置
科と号:防空電気砲装置
科かは号:高圧電気の利用により敵の通信網等を一挙に破壊する装置

【引用元】「日本における強力電波兵器開発計画の系譜-戦時下の「殺人光線」に関する検討-」(永瀬ライマー桂子 河村豊/IL SAGGIATORE No.41(2014)pp.1-16(訂正版20140619))

 

■見えない怪光線で敵機を撃墜!?

 

大学の超高圧実験施設。現在では人工的に雷を作ることはそれほど難しくはない 。

画像:日本工業大学 https://www.u-presscenter.jp/article/post-28025.html

 有名なのが「く号兵器」、通称・怪力光線だ。名前だけ見ると「ぼくのかんがえたさいきょうのぶき」みたいだが、要は人間であれモノであれ狙った相手を破壊する電磁ビーム兵器だ。

 

 とはいえ、電磁波は進む距離が長ければ長いほど弱くなる。そのためSF映画や小説に出てくるような、長距離射撃で相手を木っ端みじんにするような電磁ビームが可能だとは登戸研究所も考えておらず、狙うのは戦闘機の真空管だ。

 

 敵機に電磁波を照射することで、真空管を破壊し墜落させるのだ。目に見えない「怪力」で飛行機を落とすように見えるから怪力光線で、「怪力(くわいりき)」から「く号兵器」だ。

 

 このく号兵器の応用として電磁波で人間を昏倒させたり命を奪う「殺人光線」も計画されたが、出力も電力もまったく足りず、試作した殺人光線をずっと照射していたらうさぎが死んだので解剖したが、死因不明という間抜けなオチがついてしまったという。

 

 お次の「う号兵器」は、人工雷雲を作り雷で敵兵を殺すというもの。発想はバカげているように思えるが、実は、現在も米軍が研究中だ。

 

 帝国陸軍は人工雷雲を作ることを考えたが、現代の雷兵器は、そこは自然に任せて、レーザーで雲に穴を開け、稲妻の通り道を作って任意の場所に落雷させるという。実際にはレーザーの出力が要求に追いつかず、実用化はまだ先のようだ。