以前、連載第32回で水商売の住人が集まるマンションについて書いたことがあるが、夜職をしていると、なかなか部屋を借りるのが難しいという悩みはつきものだ。実際、私自身もキャバ嬢として働いていた頃、部屋を借りられず何度も親に迷惑をかけた経験がある。今回は、そんな水商売をしている後輩が借りたアパートで体験した怖い話を紹介しよう。

 

■格安物件に暮らす後輩のユウナ

 

アパート

相場に比べ破格の安さのアパートに入居したユイナだったが…(写真はイメージ)

画像:Adobe Stock

 私が関西のとあるスナックでアルバイトをしていた頃、19歳のユウナという後輩がいた。彼女は東北の片田舎から出てきたばかりで、当初は東京に出るつもりだったが、なぜか関西の陽気な雰囲気に惹かれ、ここでの生活を選んだという。

 

 ユウナが住んでいたのは店からほど近い、家賃4万円台のアパートだった。周辺の相場はワンルームで6万から8万円程度が普通だったので、4万円というのは破格の安さだ。

 

 昼間は大阪市内のショッピングモールでバイトをし、夜はスナックで働く彼女は、2つの仕事を合わせても手取りが20万円少しで、常に生活はギリギリだった。保証人がいないため、家を借りることが難しく、ようやく見つけたこの格安アパートは彼女にとって唯一の選択肢だった。

 

 

■身の回りで起こる異変に彼女は…

 

スナック
仕事場のスナックでも様子がおかしくなるユイナ(写真はイメージ)

 しかし、住み始めてから数ヶ月が経つと、ユウナの様子があからさまに変わっていった。もともと明るく元気だった彼女が次第に暗くなり、笑顔も少なくなった。気になって話を聞いてみると、

 

「最近、ずっとゴミが荒らされるんです……」

 

 とこぼした。アパートの前に出しておいた彼女のゴミ袋が何者かに破られ散乱していることが続いていたのだという。彼女も最初はカラスか野良猫の仕業だろうと思っていたが、何度か繰り返すうちに、なぜか彼女のごみ袋ばかり破られていることに気づき、ゾッとしたという。

 

 さらに、夜になると、隣の部屋から不気味な音が聞こえてくるようになったという。それはブツブツとつぶやくような声だったり、ときには「なんでや……」「またや……」という怒りを押し殺したような男の声だったりしたそうだ。

 

 しかもつい先日には、「そろそろやな……」という不穏なものを匂わせるつぶやきまで聞こえ、ユウナの神経をすり減らしていった──。

 

 

■焦点の合わない目で笑いかける隣人

 

不気味な男

ニヤニヤと笑いながらすれ違う男にユイナは生理的な嫌悪を感じたという

(写真はイメージ) 画像:Adobe Stock(生成AI)

 ある晩、スナックの仕事を終えたユウナがいつものように帰宅すると、家の中に妙な違和感を覚えた。誰かが侵入した痕跡があるような気がしたが、特に部屋の中に異常はなかった。それでも、心の奥底で「何かがおかしい」と、薄気味悪さを抱えたままその夜を過ごした。

 

 次の日もその次の日も、隣の部屋からの独り言は止むことがなかった。気になって仕方がないユウナは、隣人の男の様子をうかがうようになった。ユウナ曰く隣人の男は「ごく普通のサラリーマン風」で年の頃は30代ぐらいだったという。

 

 ただ、たまたまアパートの廊下で遭遇したとき、ユウナに向って男はニヤリと笑ったそうだ。

 

「その笑い顔が……生理的に嫌な感じがして。あ、しかもこっちを見ているのに焦点が合ってないというか、目がすごく不気味で……」

 

 顔をゆがめて語るユウナに私は「もう引っ越せば」とアドバイスしたのだが、まだおカネもないし…と、そのアパートを離れる踏ん切りは付かないようだった。

 

 そして、その不気味な隣人からユウナは不気味な言葉をかけられることになる。しかも、それは私の目の前で、だった──。

 

【後編に続く】