■目の前に浮かび上がった文字

 

 そんな日々を過ごしていた、ある秋の日の夕方、会社帰りの電車の中でふと「本屋に行かなくちゃいけない」という気に駆られたのです。

 

 日ごろは本屋に頻繁に行くわけでもないのに、何が気になるんだろう。不思議に感じながら途中下車して渋谷の三省堂書店に向かいました。

 

 何かに呼ばれているような気がして、書店の中をずいぶんと歩き回りました。すると、まるで書棚の中から浮かび上がるように、ある本の背表紙の「出雲」の文字が目に飛び込んできたんです。

 

 それまで私は神社のことなどほとんど興味がなく、神社なんてどこも同じでしょ、くらいに考えていました。いろいろな神様がいるということもまるでわかってなかったんです。

 

それが、日本には八百万という数え切れないほどの神様がいて、旧暦10月に1週間、出雲大社に集まって人々の縁や様々なことを会議して決める「神在祭(かみありさい)が行なわれる、というのも初めて知りました。

 

 しかも、私が書店に「呼ばれた」その日は、まさに神在祭の時期だったんです。

 

「へー! いま出雲にいけば、全国のすべての神様に一度で会えるってこと!?」

 

 単純で新鮮な驚きがありました。これはもう行くしかない! 翌日に有休をとってすぐに出雲に向かいました──。

 

 

■ご縁を結んだ出雲との出会い

 

 初めて見る出雲大社の御本殿には、まさに圧倒されました。高さ24メートルもある黒ぐろとした御本殿は、どん!とした圧巻の存在感があり、それでいてどこか包みこまれるようなあたたかさがあって、何も言わずただそこにいてくれるような安心感を覚えました。

 

「私はこういうところで歌いたい!」

 

 無謀にもそう思ったことが、今につながっています。

 

 さらに不思議な出会いもありました。右も左もまったくわからずガイドブックを片手に境内を歩いていた私に、たまたま通りかかった神職の方がお声をかけてくださったんです。この方に親切に教えていただいたことで、神社をより具体的で身近な存在として意識できるようになりました。

 

 それ以来、私は「神在祭」の期間には毎年、出雲へお参りするようになりました。それだけでなく、出雲の神社を巡るツアー拝殿や神楽殿での奉納歌唱、さらには出雲にルーツのある人と出会い、出雲大社で結婚式を挙げるなど、不思議なぐらい次々とご縁がつながっていったんです。

 

 すべて、初めて出雲大社にお参りしたあの日にいただいたご縁があったからこそです。歌手としてどこへ向かっていきたいのか、どんな人生を歩んでいきたいのか、迷いを感じていた私は、縁結びの神様からいただいたご縁を大切にしていけば、きっとよい未来が開けてくるはずだと、気持ちを吹っ切って進んでいくことができたような気がしています。

 

 

■神様には「役割分担」があった!?

 

縁結びの神社

縁結びから商売繁盛まで様々な「役割」をもった神々を祀る神社が全国各地に。

画像:shutterstock

 すっかり神社の魅力に取りつかれてしまった私は、以来、全国各地の神社に足を運ぶようになりました。そのなかで、神社によって空気感が違うこと、神々にはそれぞれの役割があるということを知りました。

 

 日本の神様は、ああしろこうしろと言葉で示してくれるわけではありません。でも神社に行くと、なぜか心が晴れてくる。そんな体験は多くの人がしているのではないでしょうか?

 

 この連載では、悩んで閉じこもっていたころの私のように、いま何をすれば、どっちに進んでいけばいいかわからない! とモヤモヤしている方に、その悩みにピッタリの役割をお持ちの神様を祀る神社をご紹介していこうと思います。

 

 連載第1回は、身近な“ホームドクター”のように、何か困ったことがあったらまず駆け込むといい、あなたのそばにある神社についてご紹介します。また、「私のこの悩み、どこへ行けばいいの?」という方は、ぜひ編集部までメッセージやお便りをお寄せください。

 

(連載第1回は明日、2025年3月14日公開予定です/編集部)