■ヒトラーにカリスマ性を伝授!

予言が的中しているとはいえ「霊的アドバイザー」とはなんともうさん臭い。が、こうした人物を重用したのがナチス・ドイツ。そもそもヒトラー自身も、ロンギヌスの槍を求めたとか、彼自身が霊媒体質だったとか、オカルト的な噂を書き出せばキリがないほどだ。
しかも、ヒトラーの大衆を熱狂させるカリスマ性や神懸かり的な演説術を伝授したのも、実はハヌッセンだとされている。
第二次大戦後、ОSS(米・戦略情報局、後のCIA)がまとめた報告書では、1921年、ヒトラーがナチス党の議長に就任した際、「ヒトラーがハヌッセンから演説法や大衆心理学のレクチャーを受けた」とある。

また、1926年、ベルリンのホテルで開かれたヒトラーの講演会でハヌッセンが、演説の指南役として自ら売り込んだとの説もある。
予言の能力はさておき、“カリスマ指導者・ヒトラー”を演出するだけの能力を、ハヌッセンはどこで身に付けたのか、この怪人物の経歴から探っていこう──。
■性の狂宴で怪しげな人脈を…

ハヌッセンの人生は謎に包まれている。ただ、当時の資料によれば、ヒトラーに会う前から、すでに「世紀の魔術師」としてヨーロッパ中で知られていたのは確かだ。
デンマーク貴族の末裔で千里眼(透視能力)や占星術師として、ベルリンのスカラ座をはじめ各地の名門劇場でショーを開催。さらに、高額な見料でセレブ相手の占いや降霊会を開き、莫大な財産を築いていたという。
1930年にベルリンに拠点を移すと、同地の政財界や上流階級の人々が殺到。市内に7つの豪邸を構え、何台もの高級車を乗り回し、愛人にはダイヤモンドを配り歩いていたとの話もある。
さらにハヌッセンは、市内の運河に浮かべた豪華ヨット「ウルセル四世号」にセレブたちを集め夜ごと乱交パーティーを開き、怪しげな人脈を広げていた。良識あるベルリン市民は彼の乱交ヨットを「七つの大罪号」と噂したそうだ。
そして、このオカルトと性の狂宴こそが、ハヌッセンとヒトラーを結びつけるきっかけとなるのだ──。
■SA幹部を通じてヒトラーに接近

指導者のレーム(写真右)をはじめ突撃隊幹部たちもハヌッセンの「上客」だった。
画像:Bundesarchiv, Bild 102-15282A / Georg Pahl / CC-BY-SA 3.0, CC BY-SA 3.0 DE , via Wikimedia Commons
実は、ハヌッセンの乱交パーティーの常連にはナチス党員、特に突撃隊(SA)が多く、後にベルリン警察長官になったSA幹部、ヴォルフ=ハインリッヒ・フォン・ヘルドルフ伯爵ともここで親密な関係になったとされる。
そして、このヘルドルフ伯爵を通じて、ヒトラーとハヌッセンは初会合するのだが、ハヌッセンの詳細な伝記をまとめたメル・ゴードンによれば、それは1932年6月のことだったという(注)。
その後、ヒトラーとハヌッセンは急接近。12回ほど密談したというが、問題はなぜ、この二人がここまで密接な関係になったかだ。次回後編では、ハヌッセンとヒトラーが急接近した謎、そして、ナチスと蜜月だったハヌッセンが、絶頂から転落し謎の死を遂げた背後に潜む闇について見ていこう──。
【後編は4月20日21時公開予定】