カンヌ国際映画祭で2冠の栄誉に輝き、大注目の映画『ベイビー・ブローカー』。日本映画界の鬼才・是枝裕和監督と、韓国の名優たちのタッグという意味でも、意味深い作品になっているのは周知のとおり。
カンヌで主演男性俳優賞をとったソン・ガンホはもちろん、『ベイビー・ブローカー』のなかでもとりわけ強い存在感を放ったのは、ベイビーロッカーの捨てた我が子を取り戻そうとする母親を演じたIU(イ・ジウン)だ。
■『マイ・ディア・ミスター〜私のおじさん〜』につながる世界感
ここぜひ注目してほしいのは、是枝作品と韓国ドラマの縁だ。是枝監督は会見でも、IUをキャスティングした理由が『マイ・ディア・ミスター〜私のおじさん〜』、イ・ジュヨンは『梨泰院クラス』を観たことがきっかけだったと明かし、彼女たちの才を絶賛している。
だが、実はそれ以前に『マイ・ディア・ミスター〜私のおじさん〜』の世界観は、是枝監督が作り出す世界観への共感から生まれている。(以下、「マイ・ディア・ミスター〜私のおじさん〜」に関するネタバレがあります)
それは、『マイ・ディア・ミスター〜』の最終話のセリフに出てくる。イ・ソンギュン演じる主人公パク・ドンフンに、弟で元映画監督のギフン(ソン・セビョク)が、ヒロインのジアン(IU)の近況を訊ねる場面だ。わからないと返すドンフンに、ギフンはある映画の話を持ち出し、こう話す。
「『誰も知らない』って映画がある。母親に置き去りにされ、子供だけで暮らす話だけど、5分も見られなかった。(中略)でも、映画人として見ておくべきだと思い、次の日に見たんだ。見てよかったと思ったよ」
『誰も知らない』は、2004年に公開された是枝監督の作品で、当時14歳だった柳楽優弥が最優秀主演男優賞を受賞した名作だ。なぜ、映画を見てよかったと思ったか。理由をギフンが語るセリフが続くのだが、その世界観はまさに『マイ・ディア・ミスター〜』に通じている。こうして、日韓それぞれの映画・ドラマ界のクリエイターたちが、互いに良いと思った作品をリスペクトし、そこから刺激を受けて、さらに自分たちの作品のなかに取り込んでいく連鎖に心震えてしまう。
ちなみに『マイ・ディア・ミスター~』の脚本を手がけたのは、現在Netflixで連日トップ10にランキング入りしている『私の解放日誌』の脚本家、パク・ヘヨンだ。脚本家が描き続けるテーマ、伝えているメッセージは『私の解放日誌』にも通じている。
日本では6月24日(金)よりTOHOシネマズ日比谷ほかで全国公開される『ベイビー・ブローカー』。その予習がてらに、『マイ・ディア・ミスター〜』をぜひ観てみてほしい。『マイ・ディア・ミスター〜』に心打たれた人は、是枝監督の『誰も知らない』もぜひおすすめだ。