済州を舞台としたドラマ『私たちのブルース』の全20話が配信された。イ・ビョンホンをはじめとする俳優たちの演技や物語の社会性など、本作の魅力を語る要素は多いが、今回は済州の風物と人物描写にフォーカスを当ててみる。
■チュニ(コ・ドゥシム)と石垣
「何かを期待して生きてなんかいないよ。ただ受け入れるだけさ」
第15話の中盤、ドンソク(イ・ビョンホン)の母親オクドン(キム・ヘジャ)と手をつないだチュニ(コ・ドゥシム)が海辺を歩きながら口にした言葉だ。このセリフで思い出したのが、済州のどこを撮っても映り込む石垣(パッタム)である。
済州は火山活動で生まれた島なので、溶岩が固まってできた石(玄武岩)が多い。
オクドンやチュニの家がそうであるように、庶民の家屋の多くが玄武岩を積み上げた石垣で囲われている。この石垣は島民が積んで作るのだが、石と石の間にあえて隙間ができるように積まれている。
一見頼りなさそうに見えるが、強い風を受けても隙間から空気が抜けるので石垣にかかる風圧が弱くなり倒壊しないのだ。
家族の多くを失う苦難に耐え、いつしか「受け入れるだけ」という境地に達したチュニと、風雨に耐える石垣が重なる。
チュニという石垣にとって、隙間とはなんだろう。たいていのことは笑い飛ばしてしまうユーモアセンスのことだろうか。あるいは、彼女の理解者であるオクドン、運命共同体の海女たち、なにくれとなく世話を焼いてくれる五日市の仲間たちが隙間の役目を果たしているのかもかもしれない。