統一目前の朝鮮半島で、南北のクセ者9人が現金4兆ウォン強奪しようとする韓国ドラマ『ペーパー・ハウス・コリア:統一通貨を奪え』。筆者はひと晩で全6話を一気に観てしまった。強盗団と人質・警察の攻防も見ものだったが、もっとも惹きつけられたのは、第1話の冒頭6分だった。
強盗団のひとり、北朝鮮の平壌に住んでいたトーキョー(チョン・ジョンソ)が韓国に来るまでのいきさつをコンパクトにまとめたシーンなのだが、南北分断の当事者である韓国人には刺激的な場面の連続だった。今回から数回に渡り、その見どころをお伝えしよう。
■北朝鮮の人々と韓流の接点は?
BTSの振り付けを真似しながら階段を下りて来たトーキョーが、クラシックなチマチョゴリの女性とすれ違い、その向こうに金日成主席と金正日総書記像が見えた瞬間、「ここは平壌だったのか!」とハッとする。
しかし、平壌市民であるトーキョーが小さい頃から韓流にふれてきたというのは、もはや驚くべきことではない。朝鮮民主主義人民共和国(俗称、北朝鮮)は90年代までは資本主義諸国の文化にふれることに目くじらを立ててきたが、外貨稼ぎのために中国に渡る者が増えてからはなしくずし的に韓流が流入し、多くの人が韓国のドラマや映画、音楽にふれている。あからさまになれば処罰はあるものの、当局も外貨を稼いでくるなら目をつぶっているというのが現状だろう。
ちなみに、筆者が脱北者にインタビューし、それを日本語訳した本『ボクが捨てた「北朝鮮」生活入門』(金起成著、幻冬舎刊)の著者は、次のように言っていた。
「90年代、私の家には日本製のテレビがあり、どういうわけか雨の日には南朝鮮(韓国)の放送がよく映りました。南朝鮮の歌や踊りが洗練されていることにも驚きましたが、もっと驚いたのは、全斗煥と盧泰愚2人の大統領が逮捕され、死刑が求刑されたことです」
大統領の逮捕は、国のリーダーが絶対神である北朝鮮では考えられないことなのだ。
『ペーパー・ハウス・コリア』の冒頭、ソウルへ向かう列車内でのトーキョーの心の声は、「車内の誰もが同じ匂いを嗅いでいるのは明らかだった。それは希望の匂いだ」だった。
これは母国のリーダーへの忠誠心が弱まったことを示している。ドラマではその点についての言及はなかったが、物語上は2025年、北側のリーダーは求心力を失い、背に腹は代えられなくなったのかもしれない。