JEAでチラシ配りをしていたのは、ミニスカート姿の韓国人女性だった。筆者はこれまで多くの脱北者にインタビューしたが、彼らが韓国に来て驚いたことのひとつが、「商業施設の前で肌も露わな女性が踊りながら入店を促していること」だったそうだ。

 ミニスカート姿のコンパニオンの後ろの建物には「〇〇體驗館(体験館)」と書かれている。〇〇部分は風船のアーチで隠れて見えないが、「南韓文化」と書かれているはずだ。韓国では北朝鮮を北韓、それに対して自国を南韓と呼ぶからだ。

 北朝鮮から韓国にやってきた脱北者の場合、ハナ院という定着支援施設で資本主義社会について学んだり、街に出て銀行口座を作ったり公共交通の利用の仕方を学んだりする。劇中の「南韓文化體驗館」はそれを一般化させたものと想像できる。

 20年前、韓国に来た北朝鮮の人は、韓国の何もかもに驚いていたが、訪中経験者が増え、韓国に近い消費文化を経験した人が多いので、かつてほどのカルチャーショックはないだろう。

北朝鮮側から撮影したJSA(共同警備区域)。ドラマでは冒頭2分30秒を過ぎた頃、JEA(共同経済区域)として登場した。JSAがどんなところなのかは、ソン・ガンホイ・ビョンホンの主演映画『JSA』(パク・チャヌク監督、2000年)を観るとよくわかる

 なお、平壌出身の通称トーキョーを演じた女優チョン・ジョンソのファンはお気づきかもしれないが、彼女はデビュー作の映画『バーニング 劇場版』(イ・チャンドン監督、ユ・アイン主演、2018年)の冒頭、商業施設の前で客寄せするコンパニオンを演じていた。これは偶然とも思えず、チョン・ジョンソをキャスティングした製作者のちょっとしたいたずら心ではないかと想像する。

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・日時:8月7日(日)、10月9日(日)※いずれも15:30~17:00
・語り手:ソウル在住の紀行作家 鄭銀淑(チョン・ウンスク)、韓国関連書籍の企画編集者 山下龍夫
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