今人気のNetflix韓国ドラマ『ウ・ヨンウ弁護士は天才肌』。韓国ではケーブル放送局で放送されているのだが、視聴率が急上昇していて話題沸騰中だ。
本作には印象に残ることが多々あるので、書いていくことにする。今回の話題は、自閉スペクトラム症の新米弁護士である主人公ヨンウ(パク・ウンビン)が執着する鯨(クジラ)について。
■韓国人にとって鯨とは何か?
ヨンウは毎朝、鯨のグッズだらけの部屋で目覚め、合井駅から地下鉄2号線に乗って駅三駅にある事務所に向かう。途中、地下鉄が漢江を渡るとき、窓外に大きな鯨が見える。もちろんヨンウの心象風景だ。
ヨンウはことあるごとに鯨の話をする。父親(チョン・ベス)はヨンウに外でむやみに鯨の話をするなと釘をさすが、どうしても鯨の話をする必要があるときはしていいと言う。寛容な父親である。
鯨と聞いて私のような50代以上の韓国人が思い出すのは、60年代から70年代の人気作家チェ・イノの小説『鯨とり』と1975年の青春映画『馬鹿たちの行進』のテーマ曲『鯨とり』、そして1984年の映画『鯨とり』(アン・ソンギ、キム・スチョル、イ・ミスク主演)だ。
「♪さあ、旅立とう東の海へ 神話のように息吹を上げる 鯨を狩りに」(映画『馬鹿たちの行進』のテーマ曲より)
韓国語の「고래(コレ=鯨)」という言葉には、「大望」「夢」「理想」という象徴的な意味がある。それはこれらの小説や歌、映画に由来している。軍事独裁政権だった70~80年代、この曲は放送禁止歌だったが、誰もが口ずさんでいた。それは民主化を渇望する人々の心の声だったのだ。