70~80年代前半、我が国ではまだチキンがごちそうだった。私が小学生のころ、市場には鶏屋というものがあり、小さなかごの中でバタバタと暴れている鶏をよく見かけた。
鶏を選び店先でさばいて油の入った大鍋で揚げられた丸鶏、または店先の機械でローストされた丸鶏は「トンタク」と呼ばれた。これが韓国のチキンらしいチキンだ。
80年代半ばにはケンタッキーフライドチキン1号店も鍾路にできた。
イングが買ってきたのがどのタイプかはわからないが、母の手から美味しそうにチキンを食べる息子の姿に、郷愁を感じた韓国人は多かったはずだ。
■韓国人を80年代にタイムスリップさせる曲
ドラマや映画で、その時代の空気を醸し出すためには、食べ物だけでなく音楽も効果的だ。
イングが経営するカラオケバーのシーンや、妻となる女性がイング宅を訪れるシーンで流れたアップテンポな曲は、ユン・スイルが1982年に歌った「アパート」。韓国人なら口ずさめぬ者はいないといわれる大ヒット歌謡だ。
ユン・スイルは1955年、在韓米軍勤務のアメリカ人の父と韓国人の母との間に生まれた。米軍の街、東豆川(トンドゥチョン)で働くイングとユン・スイルが重なる。