韓国映画を代表する3大ジャンル、「ラブストーリー」「ノワール」「南北分断」のなかから、知られざる傑作にスポットを当てるコラムの3回目は、ホン・サンス監督を取り上げる。同監督の作品は、一部の映画好きには受けがいいが、「難解」「一般受けしない」と言われがちだ。そのため食わず嫌いになっている人も多いだろう。
しかし、彼の映画には旅が好きな者を引き付ける強烈な磁力がある。映画的な解釈などしようとせず、登場人物といっしょに旅をするつもりで観れば、有意義な時間を過ごすことができる。今回はホン・サンス入門に最適な作品、『夜の浜辺でひとり』(キム・ミニ主演、2017年)を紹介しよう。
■舞台はハンブルグと江原道
映画監督との不倫スキャンダルに疲れてハンブルグに逃げていた女優ヨンヒ(キム・ミニ)。「会いに行く」と言いながらも姿を現さない監督を待つともなく待ちながら、友人と雑談して過ごすが、ほどなくして帰国。江原道の東海岸に滞在し、友人知人とコーヒーを飲んだり、酒を飲んだり、雑談したり、浜辺に身を横たえたりする。
いつものホン・サンス作品通り、主人公と関わる人々がどこかバランスを欠いているため、気まずい場面が多い。しかし、ホン・サンスの他の作品と比べると、その気まずさは笑いにつながりやすく、私が劇場で観たときもあちこちからクスクスと笑う声が聞こえてきた。
なかでも、映画『感染家族』やドラマ『大丈夫じゃない大人たち~オフィス・サバイバル~』のチョン・ジェヨンと、『シュルプ』や『気象庁の人々』のクォン・ヘヒョの人間臭い演技は見ものだ。