その後、正祖自ら行った尋問により、黒幕が明らかとなる。それは、かつて荘献世子を死に追いやり、正祖が即位後に排除した老論派の大物、洪啓禧(ホン・ゲヒ)の孫、洪相範(ホン・サンボム)ら。失脚させられた自分たち洪一族が返り咲くには、クーデターで正祖を排除するほかないとの行動だった。
さらに、逆徒たちが正祖の異母弟の恩全君(ウンジョングン)イ・チャンを新しい王に担ぎ上げようとしていたことも発覚する。すると、暗殺事件が老論派の排除につながることを恐れた人々によって、恩全君の厳罰を求める上訴が執拗に上がるように。正祖は、異母弟を守ろうとしたが、最終的に自殺を命じるほかなかった。正祖はまた、謀略により肉親を失ったのである。
老論派のなかでも保守強硬派の僻派は、正祖がいつ自分たちに牙をむくか、荘献世子の件で報復するかを恐れ、先手を打って正祖を排除しようと躍起になっていたといわれている。この暗殺事件こそうやむやに終わったが、水面下の戦いは生涯に渡って続き、48歳で正祖が亡くなったときも、毒殺説がまことしやかに囁かれたほどだった。
この「正祖暗殺未遂事件」は、世孫時代から何度も命の危機が訪れる名作ドラマ『イ・サン』(主演イ・ソジン/2007年)や、ジュノ(2PM)主演『赤い袖先』(2021年)はもちろん、多くの作品で描かれてきた。
とくに、『愛の不時着』のヒョンビンが正祖を演じた映画『王の涙―イ・サンの決断―』(2014年)は、事件そのものを題材にしたサスペンスアクション史劇。幼い頃から、そのときのために育てられた刺客を『賢い医師生活』のチョ・ジョンソクらが演じている。
また『正祖暗殺ミステリー 8日』(2007年)も、正祖が王宮を離れ父の墓を訪れる8日間を舞台にした上質なサスペンスミステリーだ。