ラブストーリーやラブコメ、ファンタジーものにキラキラ時代劇(イケメン主人公の時代劇のこと、筆者が勝手に命名……)、最近はサスペンスドラマにも傑作が多い韓国ドラマ。こうした幅広いジャンルがあることも、韓国ドラマの大きな魅力である。
なかでも、この『こうなった以上、青瓦台に行く』は異色だ。韓国の政治や社会をピリリと皮肉った政治ブラックコメディなのである。韓国の著名な映画雑誌「CINE21」では、同じ年(2021年)に配信された『イカゲーム』『D.P. -脱走兵追跡官-』などを抑え、「今年を輝かせた作品」の1位を獲得している。
ちなみに青瓦台(チョンワデ)とは、韓国大統領府のこと。このドラマのあと、2022年に移転され、今は市民公園になっている。
■政治ブラックコメディ『こうなった以上、青瓦台に行く』の見どころは?
『こうなった以上、青瓦台に行く』の物語は、元野党議員で射撃の金メダリストの主人公が、急遽、文化体育観光部の長官に抜擢されるところから始まる。序盤から思わず吹き出すへんてこなエピソードがたっぷりだ。前長官が慣れないオンライン会議で画面を消し忘れ、あらぬ姿をさらして退任するはめになるとか、今や懐かしいコロナ禍初期のエピソードもブラックに描き出している。
本作は、2019年に地上波放送3社と大手通信会社が協力して開設した韓国の動画配信サービスWavveのオリジナルドラマ。日本の韓ドラファンには、韓国の動画配信サービスといえばTVINGがよく知られているが、そのライバル会社だ。韓国の動画配信サービスのオリジナルドラマは、地上派やケーブル局のドラマに比べて規制が少ないためか、かなり踏み込んだ内容や振り切った表現もありおもしろい。ドラマ配信を始めたころのケーブル局の勢いを思い出す。
劇中では、新人の女性長官を主人公に、政治家たちや文化体育観光部の職員たちのごたごたが描かれていくが、メディア問題、女性差別、北朝鮮問題、K-POP業界の闇、スポーツ界のパワハラ、性犯罪、政治と新興宗教など、韓国の社会問題もどっさり盛り込まれ、絶妙に風刺される。
ストーリーの構成もとっても斬新。序盤は韓国的な政治事情が描かれ、少しわかりづらいところもあるが、そこで離脱してしまうのはもったいない。途中から、主人公の夫の拉致事件が発生し、二段構えになるというか、頭がクラクラするほどの展開が待っている。
本作を手掛けたのは、独立映画やWEBドラマ界で活躍してきたユン・ソンホ監督。配信元のWavveからは「政治」と「ブラックコメディ」という2つのキーワードだけを提示され、ドラマの構想を練ったのだという。それだけでこんなにユニークな発想を生み出すとはすごい。実在の出来事や人物をモチーフにしたわけではなく、数人の脚本家とともに楽しんで想像して作ったというが、韓国エンタメ界に現われた新たな鬼才かもしれない。