■名女優イ・ミスク、静と動の演技世界
モ・スリの毒婦ぶりがあまりに強烈で、このイメージが固定してしまったら彼女が気の毒なので、イ・ミスクの多彩な演技世界が堪能できる映画をいくつか紹介しよう。
イ・ミスクの素が見たいなら、6人の女優(ユン・ヨジョン、イ・ミスク、コ・ヒョンジョン、チェ・ジウ、キム・ミニ、キム・オクピン)の楽屋裏を捉えたセミドキュメンタリー映画『女優たち』(2009年)が必見だ。
6人の女優がイライラしながら撮影を待ったり、コ・ヒョンジョンとチェ・ジウがつかみ合いのケンカをしたりするスリリングな映画なのだが、イ・ミスクは早口とユーモアのある毒舌で常に場を明るくする姉御的存在だった。
また、明朗快活なイ・ミスクらしからぬ静の演技が光っていたのが、『情事 an affair』(1998年)。当時、39歳のイ・ミスク扮する人妻ソヒョンが、自分の妹の婚約者ウイン(当時26歳のイ・ジョンジェ)と恋に落ちる話だ。1990年代の韓国映画には珍しく「余白」の多い作品で、二人とも口数は少ないが、ソヒョンのウインに対する感情が静かに高まってゆき、やがて堰を切ったようになるところが見ものである。
20本以上の映画に出演したイ・ミスクの全盛時代といえる1980年代の作品では、カラッとしたお色気が魅力の『桑の葉』(1985年)と『鯨とり コレサニャン』(1984年)がおすすめだ。
『鯨とり コレサニャン』のDVDジャケット画像、左下が当時20代半ばのイ・ミスク。『桑の葉』は韓国映像資料院のYouTubeで視聴できる。