■笑って、泣けて、しかも美しい、新たなラブファンタジーの名作誕生!
『18の瞬間』という青春ドラマの名作があるが、韓国ドラマは“瞬間”をとてもロマンチックに捉える。本作にも、「再び過去に戻ってようやく気づいた。もしかしたら逃しちゃいけない瞬間がどこかで光を放ちながら、私に合図を送っていたのかもしれない……」というヒロインの印象的なひとり語りのセリフがあり、ひとつの瞬間に自分が思いも寄らないことが詰まっているかもしれないことを、所々で描いている。
最も象徴的なのは、大人になったソンジェとソルが橋で再会する場面。このシーンが劇中何度も登場する。ソルが時空を行き来したことにより見方や状況が次第に変わっていくのだが、ひとつの場面を変形させて、ソルの想い、ソンジェの想い、変化する気持ちなどが表されていく名シーンだ。
そのほか、未来に起きることを話すと時が止まるシーンや、目の前で告白する声とイヤホンから聞こえる告白の声がダブるシーンなども、2人の心情が重層的に降り積もるようで、「うまい!」と唸らせられる。
もうひとつのキーワードである“記憶”は、物語をミステリアスにすることに一役買っていた。例えば、物語序盤、ソルは自分がなぜ足が不自由になったのか記憶を失くしている。そのことが、ソルやソンジェに危険をもたらす。その後も、タイムスリップした間の記憶がなかったり、その記憶がふと思い出されたり、そして最後にはソンジェが……。
“記憶”の導き役になっていたのが、認知症になったソルの祖母というのも、よく考えられてるなと感心した。祖母が正気に戻ったときに発した「私は記憶の中を旅している」「頭では忘れても、心の中ではすべて大切に覚えている」というセリフには、まさにこれぞ韓国ドラマ!と興奮させられた。
始まる前はほとんど期待されていなかったという『ソンジェ背負って走れ』。一途に愛を貫くソンジェとソルを演じたビョン・ウソクとキム・ヘユンのハマりっぷりが本作の大きな魅力ではあるが、それを支えていたのはやはり丁寧な演出と脚本だろう。
とにかくひとつひとつのシーンの作り込み方がすごい。緻密で説得力がある。その積み重ねが、笑って泣けてしかも美しい、新たなラブファンタジーの名作を完成させたように思う。原作小説にかなり改変を加えたようだが、原作ファンにも好評だったという。
ビョン・ウソクというスターを誕生させ、話題性という人気のバロメーターを証明した作品としても記憶されていきそうだ。