『太陽の末裔 Love Under The Sun』では世紀のロマンスで熱狂させ、近年は『ヴィンチェンツォ』『財閥家の末息子~Reborn Rich~』など、型破りなダークヒーロー、あるいは、知的な復讐者としての顔で、新たなドラマファンを生んできたソン・ジュンギ。出演のたびに作品を大ヒットさせてきた彼は“目利き”の達人でもある。そんなソン・ジュンギが、脚本に惚れ込んだ映画『このろくでもない世界で』が日本でも公開中だ。
地方の暴力が蔓延る町で貧困にもあえぐ18歳の少年ヨンギュ(ホン・サビン)と、彼の絶望漂う瞳にかつての自分を重ねた裏社会の男チゴン(ソン・ジュンギ)。傷だらけの2人が交錯した時、彼らの運命は思わぬ方向へ猛スピードで走り出す―――。
あらゆる希望を放棄し、ただ淡々と犯罪組織を動かす日々を送るチゴンの姿、その変化を演じ、見事に俳優としての幅を広げたソン・ジュンギのインタビューをお届けする。
■“本当に深くて暗い映画”を求めていたときにやってきた脚本
――『このろくでもない世界で』に出演を決めたポイントは?
「知人に別の作品を提案されて断ったことがありました。そのとき、『では、あなたはどんな映画をやってみたいのか』と聞かれたので、『“本当に深くて暗い映画”をやってみたい』と答えたんです。すると、主人公ではないけれど……と渡されたのが、この『このろくでもない世界で』でした。
当初の脚本は今よりもさらにつらい状況のものでした。このシナリオを書いた人は、本当に大人に対する期待と希望がないなと感じ、いったいどんな人がこのような脚本を書いたのかが気になったのが始まりです。
振り返ってみると、何かを欲していたときにやりたい役が来て、それを掴み取ったということのようです」
――監督の第一印象はどうでしたか?
「会うやいなや、『どれだけ大変な人生を過ごしてきたのですか』と訊きました(笑)。幸い、監督本人の経験談ではないと聞いて安心しましたよ。
不思議なことに、劇中の登場人物の姿を少しずつ持っている方でした。揺れ続けるヨンギュ(ホン・サビン)のようでもあり、義理の妹であるハヤン(キム・ヒョンソ)のような面もあり、本人の中の様々な姿を作品に 投影させることができる監督だという印象でした」
――ソン・ジュンギさん演じるチゴンはどんな人物ですか?
「表面的には地元の犯罪組織のリーダーです。偶然、ヨンギュ見かけて、自分の幼い頃を思い出し、まるで鏡を見ているような気持ちにとらわれ、関わり始める。
ただ、問題は、彼が関わることがヨンギュにとって本当に有益なのかは分からない。撮影しながらも、この部分を悩みました。チゴン自身は欲望が去勢されてしまったように何も望むことがない人です。ただ生きながらえているから生きている」
――劇中でも「生きている死体」という表現が出てきます。
「生きることに虚しさを抱えており、万事無気力。命令された仕事だけを遂行する機械のようというか……。ヨンギュはチゴンに会って変わりますが、チゴンもヨンギュに会って変化します。そのような点をどのように表現するか、監督とかなり話し合いました。結局、答えはシナリオにありました。シナリオにあることをできるだけ忠実に表現しようと努力しました」