(C) 2023 PLUS M ENTERTAINMENT, SANAI PICTURES, HiSTORY ALL RIGHTS RESERVED.

――チゴンとヨンギュの違いは?

「チゴンとヨンギュの最大の違いは希望の有無です。ヨンギュは“ファラン(韓国語でオランダ。映画の原題でもある)”に漠然とした希望を抱く。それがたとえ誤った情報、存在しない理想郷でもかまいません。故郷を脱出してそこに行きたいという気持ちを抱くことが重要です。

 一方、チゴンはすでに終わった人物です。すり減った状態で、どこかに旅立ちたいという欲望などもうない。ヨンギュが故郷を離れることを諦めたなら、チゴンのようになるのではないかと思います。うんざりする場所に疲れ果て、いまや去る勇気も出せない人物。ある意味、非常に自虐的で変態的な人物でもある。

 どれだけリアルなのか、理解できるのかとは少し違う……、むしろ“映画的アプローチ”が必要な人物だと思っています」

――チゴンは貯水池に閉じ込められた、死んだ魚のようでした。映画でも釣り場、釣り針、魚チゲなどの象徴的なものが繰り返し登場しますね。

「ヨンギュと魚のチゲを食べる場面がありますが、ヨンギュとチゴンが共感し合う重要な瞬間でした。夜中の2時頃から一晩中チゲを食べたので、終わる頃には生臭いにおいがしたほどです(笑)。苦労した分、いい場面が撮れたので、やりがいがありました」

――『このろくでもない世界で』は重くて暗い映画ですが、現場の雰囲気はどうだったんでしょうか。

「熾烈ながらも平穏でした。台風の真ん中が静かなように。みんなきつい環境で最善を尽くしました。不安も不思議とありませんでしたね。

 キム・チャンフン監督と主演のホン・サビンはいずれも新人なので、(私が)バランスを取らなければならないというプレッシャーは多少ありましたが、それより得るものがはるかに多い現場でした。

 私自身、息が吸えるようになるための穴を開けてくれた映画だったというか、現場で癒されることが多かったです。商業映画を撮影する時に感じた渇きを解消する時間でもありました。本当に良い映画を作りたいという気持ち、映画らしい映画が作られているという確信ができました。

 このように完成された映画が多くの方々に紹介されてほしいです」

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●『このろくでもない世界で』​ストーリー

 継父のDVに怯える18歳のヨンギュ(ホン・サビン)は、義理の妹ハヤン(キム・ヒョンソ)を守るために暴力沙汰を起こして高校を停学、その上、示談金を求められる。生き抜く術のないヨンギュは、地元の犯罪組織のリーダー、チゴン(ソン・ジュンギ)の門戸を叩くほかなかった。仕事という名の“盗み”を働き、徐々に憧れのチゴンに認められていくが、ある日、組織の非情な掟に背いてしまい……。

●公開情報

『このろくでもない世界で』TOHOシネマズ シャンテほか全国公開中

[2023年/韓国/123分]監督・脚本:キム・チャンフン

出演:ホン・サビン、ソン・ジュンギ、キム・ヒョンソ(BIBI)

配給・宣伝:ハピネットファントム・スタジオ

公式HP:happinet-phantom.com/hopeless

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