ソン・ジュンギ演じる“生きることに無気力”な裏社会のボスと、家庭内暴力を抱える青年との出会い、その後生まれる負のスパイラルを描き切り、カンヌ国際映画祭や百想芸術大賞などでも高い評価を得ている韓国映画『このろくでもない世界で』が公開中だ。
そのあまりにも“深く重厚な”脚本に興味を抱いたソン・ジュンギが、出演を希望したことから制作が本格化したという『このろくでもない世界で』。若き日に自ら抱えた痛みを糧に、脚本も自ら手がけ、本作が長編デビュー作となった、キム・チャンフン監督のインタビューをお届けする。
■「ソン・ジュンギさんは、新人監督の私が現場で活躍できるような雰囲気を作ってくれました」
――今作が初の長編作品だそうですが、どのように誕生したんでしょうか?
「当時の私は生活が苦しく、モーテルなどでもアルバイトをしていました。なにをするにも思い通りにいかないと思っていた時期でした。まわりをみても、積極的に行動することで全く予想できなかった結果に陥ることが多く、生きることへの悩みが多かったんです。そのときの重い考えと観点が、脚本に反映されました。
シナリオを読んだ制作会社の代表からすぐ連絡がありましたが、なかなか実現に向けて進みませんでした。その後、ソン・ジュンギさんの手にシナリオが渡り、一緒に仕事がしたいと提案してくれたことから、制作が動き出しました」
――どん底を直接経験せずには表現しにくいディテールに驚かされました。
「うれしい褒め言葉です。厳しい環境から抜け出そうともがいている人物が、もがけばもがくほどに泥沼に陥る話です。
自伝的な経験が反映されたのかとよく質問されましたが、そうではありません。ただ、人物の関係性、映画のテーマ、全体的なキャラクターの態度や町の雰囲気、例えば路地の感じなどには私の経験が自然に溶け込んでいます。
そこに“犯罪世界”を加わえたらどうなるだろうかと考えて、複合的な形で作り出しました。もともと犯罪映画、ギャングスター、ノワールのようなジャンルが好きだったことも物語に生きていると思います」
――ソン・ジュンギ以外の主演俳優に、ホン・サビン、キム・ヒョンソら若手をキャスティングした理由は?
「意図したわけではありませんが、結果的にそうなりました(笑)。経歴が重要ではなかったし、役柄にどれだけよく合うのか、フィーリングを重点的に見ました。
ヨンギュ役(ホン・サビン)は、比較的あまり知られていない俳優と一緒にやりたいと思っていました。本当に生きている人物に会ったように見えることが狙いです。(ヨンギュの義理の妹ハヤンを演じた)キム·ヒョンソさんは、歌手BIBIとして活動していますが、彼女の舞台の映像やミュージックビデオを見て、演技をしたらどうだろうか、俳優も似合いそうだ、そんなエネルギーを持った方だと思っていました。
心を開いて一緒に作っていくうちに、お互いに対する確信と信頼が生まれました。その後、私がすべきことは、俳優たちが持つ想像力を最大限に広げられる舞台を作ってあげることぐらいでした。
ソン・ジュンギさんはホン・サビン、キム・ヒョンソはもちろん、新人監督である私が現場で活躍できるような雰囲気を作ってくれましたね」