――舞台である架空の街「ミョンアン市」はどんなイメージで作っていったのでしょうか。
「ミョンアンは漢字で『暗い明、穴の中』という字を使って抜け出せない地獄のような感じを込めました。離れたいが去ることができないところ、一生閉じ込められているしかない監獄のようなところ、というイメージです。一方で、食べて寝て休むという人生の基盤が与える、不思議な安楽さのような感じを与えたいと思いました。
ヨンギュの家は私がもがいていた時期に母親と一緒に暮らしていた家をモチーフにしています。チゴンのアジトは、彼らだけの王国、要塞を想像しながらデザインしました。世界そのものが溜まっているという感じ、窮屈さを表すようにしています」
――とてもリアルな空間でした。
「建物であれ土地であれ、周辺環境であれ、少しでも新しいものがあってはならないという原則を立てました。人物たちが感じている窮屈さと疲弊は目に見えない抽象的なものだ。 このような感情を視覚化し、観客も一緒に感じてもらうために都市を成すすべてのことを「古道具」のように表現したかったんです」
――本作品でも描かれている「父と息子」の抜け出せない絆や大人の暴力性が子供たちに受け継がれるという話は、多くの韓国映画で扱ってきた素材ですが、監督ならではの視点をどういれようとしましたか?
「単純に暴力的な環境に置かれた人物の状況を描くよりは、そのような状況がどのような破滅の原因になりうるかを示そうとしました。また、一人の人物の過去と未来をチゴンとヨンギュのキャラクターを通じて、まるで鏡のように表現し、一本の映画に盛り込みたかった。
同じ人生を生きてきた2人が、お互いを眺めながら自分自身を振り返る。その過程で、私が思い描いた話を投影すれば、さらに面白い話になるのではないかと」
――カンヌ国際映画祭に招待されるなど、初の長編が実を結んだ感想は。
「責任感、そして希望です。やりたいことをやれという応援と激励を受けた気分です。ヨンギュが夢見た“ファラン(韓国語でオランダ)”のように私にも漠然としていた希望が具体化し始めました。良い縁と機会にただ感謝しています」
●『このろくでもない世界で』ストーリー
継父のDVに怯える18歳のヨンギュ(ホン・サビン)は、義理の妹ハヤン(キム・ヒョンソ)を守るために暴力沙汰を起こして高校を停学、その上、示談金を求められる。生き抜く術のないヨンギュは、地元の犯罪組織のリーダー、チゴン(ソン・ジュンギ)の門戸を叩くほかなかった。仕事という名の“盗み”を働き、徐々に憧れのチゴンに認められていくが、ある日、組織の非情な掟に背いてしまい……。
●公開情報
『このろくでもない世界で』TOHOシネマズ シャンテほか全国公開中
[2023年/韓国/123分]監督・脚本:キム・チャンフン
出演:ホン・サビン、ソン・ジュンギ、キム・ヒョンソ(BIBI)
配給・宣伝:ハピネットファントム・スタジオ
公式HP:happinet-phantom.com/hopeless
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