傑作ドラマ『マイ・ディア・ミスター~私のおじさん~』や、ポン・ジュノ監督のアカデミー賞受賞映画『パラサイト 半地下の家族』、ホン・サンス監督の映画などでおなじみだった俳優イ・ソンギュンが亡くなって1年が過ぎた。

 そのショックは大きく、悲しみはなかなか癒えないが、そんなイ・ソンギュンの姿を日本の映画館のスクリーンで観るチャンスが巡ってきた。

■イ・ソンギュンのさまざまな感情表現と、冬のソウルの空気が楽しめる映画

 今回、東京・阿佐谷の映画館「Mork阿佐ヶ谷」で上映されるのは、ホン・サンス監督が2010年に撮った『教授とわたし、そして映画』。イ・ソンギュン&コン・ヒョジンが主演した人気ドラマ『パスタ~恋が出来るまで~』の放送と同じ年に公開された作品だ。イ・ソンギュンは1975年生まれで、当時35歳だった。

『教授とわたし、そして映画』は、映画を学んでいる女子大生オッキ(『82年生まれ、キム・ジヨン』主演のチョン・ユミ)と彼女を愛する二人の妻帯者、ジング(イ・ソンギュン)とソン(大ヒットドラマ『ムービング』出演のムン・ソングン)の物語だ。

 ホン・サンス監督の映画は、登場人物の日常を淡々と描いたものが多く、何が言いたいのかよくわからないという意見もよく聞くが、冒頭にかならずエルガーの『威風堂々』が流れる4つの短編で構成されている本作はとっつきのよいほうだ。3人のなかでもっとも出演時間の長いイ・ソンギュンの喜怒哀楽の演技を淡々と眺めればよいだろう。

 4つの短編の第1話「呪文を唱える日」では、何者かから抑圧され、苦悩する彼を。第2話『キス王』では、ストーカーさながらにオッキを追いかけ回す情けなくも可愛い彼を。第3話「大雪の後」では、大学の映画科講師役のムン・ソングンと禅問答のような会話を続ける彼を。第4話『オッキの映画』では、ソウル東部の峨嵯山(アチャサン)をオッキとともに楽しげに散策する彼の姿を見ることができる。

 撮影された時期は雪がちらつく冬。ソウルの冷たく乾いた空気が伝わってくるような風景を、ただ楽しむのもよいだろう。