ディズニープラスで配信中の新作『親愛なるX』。酒とギャンブルに明け暮れる無責任な両親のもとで、過酷な扱いを受けながら成長したペク・アジンがヒロインとなっている。相手役は、彼女を守るためにすべてを犠牲にしたユン・ジュンソ。『親愛なるX』は2人の切ない愛を描いたロマンス・スリラーである。

キム・ユジョンキム・ヨンデ主演『親愛なるX』見どころ考察

 本作において、キム・ユジョンが演じるペク・アジンは、単なる「悪に染まったヒロイン」という枠には収まりきらない。幼い頃に刻みつけられた孤独、愛されなかった者だけが抱える鋭い痛み……それらの残響が、キム・ユジョンの繊細な演技によって視線や呼吸の揺れにまで染み込み、視聴者の胸をドキドキさせる。

 とりわけ、感情を閉ざした冷たい無表情から、愛を求めて崩れ落ちそうな弱さへと一瞬で切り替わるその瞬間は圧巻で、彼女の表現レンジの広さを改めて思い知らされる。

 アジンの最も近い理解者として寄り添うユン・ジュンソを演じるキム・ヨンデも、本作で俳優としての成熟を明確に示している。穏やかな瞳を持ちながら深い傷を抱える青年という役柄は、演じ方を誤ればただ弱いだけの人物に見えてしまう。

 しかし、キム・ヨンデは静かな佇まいの中に強い意志を自然に溶け込ませ、人物に静かな奥行きを与えた。アジンの破滅的な衝動に巻き込まれながら、それでも彼女を救おうとする誠実さがわずかな表情の揺れに宿り、説得力を持って迫ってくる。

 物語としては、アジンの周囲で連鎖的に起こる事件や陰謀が濃密な緊張感を生み、視聴者を次の展開へと駆り立てる。

 しかし、本作の真の魅力は心の衝突にあると感じる。アジンの影の部分がどのように形成されたのか、そして、ジュンソがなぜ彼女に手を伸ばし続けるのか。その核心が徐々に明らかになるにつれ、2人の関係は単なる恋を超え、傷を持つ者同士の共鳴へと深まっていく。この点が復讐劇としての表層を超えた作品の厚みを支えている。

 また、夜の光に照らされて陰影を帯びるアジンの表情は、キム・ユジョンの圧倒的な表現力によって「美しさと壊れそうな危うさ」を同時に放ち、目が離せない。

 キム・ヨンデが見せる静かな涙、声を震わせる繊細な場面は、彼が近年の作品で積み重ねてきた感情表現の深さを最も強く実感させる。 

 2人の過去がつながることで物語はさらに濃密となり、俳優たちの演技も極限まで熱を帯びる。キム・ユジョンの脆さ、キム・ヨンデの罪悪感が激しくぶつかり合う場面の数々は、視聴者の心をえぐるほどの破壊力を持っている。

『親愛なるX』ディズニープラス スターにて独占配信中 (C)2025 Tving & Studio Dragon All Rights Reserved
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