観客の予想を小気味よく逆転させる作品こそが、真の傑作として名を刻む。あらかじめ結末が透けて見える単調な展開では、見る人の心は決して動かない。次に何が起きるかわからないというスリリングな危うさが良質な物語には不可欠なのだ。そのような胸の高鳴りを存分に味わわせてくれるのが、3月6日より公開中の映画『しあわせな選択』である。

■映画『しあわせな選択』コミカルとシリアスのバランスが良いストーリー

 メガホンを取ったのは、世界的巨匠であるパク・チャヌク監督だ。そこにイ・ビョンホンソン・イェジンといった、韓国映画界を牽引するトップスターたちが顔を揃えている。スクリーンから放たれる圧倒的な熱量に、ファンの期待が最高潮に達するのも当然かもしれない。

 映画の序盤は、理想的な家庭の風景が描かれる。主人公のユ・マンス(イ・ビョンホン)と妻のイ・ミリ(ソン・イェジン)が、2人の愛する子どもたちと一緒に、庭でバーベキューを楽しんでいる。このオープニングの演出が実に心憎い。

 郊外に建つ立派な一軒家で、何不自由なく満ち足りた日々を送る一家の姿がスクリーンいっぱいに広がる。観客はまず温かく穏やかな至福の時間を共有することになる。しかし、嵐の前の静けさに過ぎなかった。まばゆい幸福が提示された直後から、息を呑むような本当のドラマが牙を剥き始める。

 長年、製紙会社に身を捧げてきたマンスの人生は、突然の解雇によって無残に打ち砕かれる。安定していた生活が霧散し、必死の思いで手に入れたマイホームすらも手放さなければならない状況へと追い込まれていく。それでも彼は家族のためにプライドを捨てて再就職への道を模索し続けた。

 そんな中でも、妻のミリは決して笑顔を絶やさない。夫の突然の失業という非常事態にあっても、彼女は持ち前の明るさで家族を照らし続ける。これほどまでに頼りになる愛妻がそばにいる。それにもかかわらず、マンスの焦燥感は日を追うごとに底なし沼のように深まっていく。

映画『しあわせな選択』(C) 2025 CJ ENM Co., Ltd., MOHO FILM ALL RIGHTS RESERVED

 彼を取り囲む登場人物たちも、一筋縄ではいかない個性を放っている。

 たとえばチェ・ソンチュル(パク・ヒスン)、ク・ボムモ(イ・ソンミン)と妻のイ・アラ(ヨム・ヘラン)、コ・シジョ(チャ・スンウォン)など、泥臭く生き抜いている。映画はそういう人の人生もマンスの対比として強烈に描いている。