■底辺キャバ嬢、所持金3000円で沖縄へ

初めての沖縄に飛んだはいいものの、なぜかキャバクラに毎晩出勤の日々……

/写真はイメージ(写真AC)

 私が初めて沖縄を訪れたのは2003年の夏のこと。バックパッカーで東南アジアを旅していた友人のマイが、沖縄の路上でTシャツを売るバイトをしながら1泊1000円のゲストハウスに住む生活をしていたのだ。その話を聞いた私は、「面白そう」というノリだけで沖縄の那覇へと旅立った。

 だが、当時の私は今よりも100倍は無計画だった。ゲストハウスの料金は1週間分だけ前払いしたものの、手元に残った所持金はたったの3000円。金がない私は、那覇に到着した翌日から繁華街、松山のキャバクラで働き始めた。

 初めての沖縄というのに特に観光もせず、キャバクラに出勤するだけの日々が続いて2週間……。毎日、ゲストハウスでキャバドレスと汚い服にまみれて商店街で買った250円の弁当を食べる毎日。すっかりベテラン沈没者のようになった私にマイも呆れたのか、「一緒に久高島に行かないか」と誘ってくれたのだ。

 久高島がどんな島なのかも全く無知だった私は、「ビーチに行ける!」というだけで二つ返事でOKした。だが、久高島には私だけ行くことができなかったのだ──。

■なぜ!? 私だけ「聖なる島」に渡れない!

「神の島」とも呼ばれる久高島。信仰に根付いた様々な約束事があるのでご注意を

/写真AC

 久高島に向かう日のこと。マイとその友達の5、6人ほどで一緒に向かった。久高島には那覇から車で40分ほど南西に下った安座真(あざま)港から、高速艇かフェリーで行かなければならない。安座真港まではマイの友達が車を運転してくれた。車中では皆、和気あいあいとした雰囲気だった。私も前日の仕事で酒が残っていたが、皆の輪に入ろうとした……そのときだった。

 ふと、所持金を確認しようと財布を見ると……なんと、札が一枚も入っていないことに気づいたのだ。昨夜、寝る前に前日と前々日と2日分のバイト代を入れたのは間違いないのだが……。

「ちょっ……、とりあえず車止めて!」

 和やかな車内は急にザワついた。約20年前の当時はまだ街中にATMがなく、那覇の街中にいたってはコンビニすら少なかった。一度、バイト代を預けに銀行に行こうとしたが、ゲストハウスからタクシーで20分ほどの街中まで行かないと銀行がなかったほどだ。

 そのため、私はバイトで稼いだお金を自分の荷物の中に隠してゲストハウスに置いていた。財布の金が盗まれたとわかったとき、すぐにゲストハウスで盗まれたと確信し「荷物の中のお金も根こそぎ……」と不安を感じたため、一人で車を降りてバスで宿まで戻ることにした。

 宿に戻ると、隠していた金は無事だった。恐らく、財布の金は昨晩、仕事で疲れてリビングでバッグを放り投げて爆睡していたときに盗まれたのだ。そして、犯人もすぐに判明した。私が「金が盗まれた!」と騒いだ直後にそっと宿を出た男がいたのだ。

 ゲストハウスのオーナーいわく、男は明らかに挙動不審だったという。あとあとオーナーが調べたところ、前科持ちだったことも判明した。とはいえ、男が捕まることは結局なかったのだが……。

 金を盗まれた私は、その日からふたたびキャバクラ生活に戻った。結局、どこか観光することもなく、1ヶ月ほどただゲストハウスに滞在しただけで沖縄旅は終わったというわけだ。帰る頃には貯金だけが貯まり、これに旨味を感じた私はその後も地方のキャバクラで働きながら遊ぶ……という、今でいうリゾキャバ生活のような暮らしを送っていた。

■4年後にわかった真実

 沖縄から帰ってきた後、すっかり旅の魔力に取り憑かれた私はタイをはじめ海外の夜遊びに没頭し、久高島のことはすっかり忘れていた。もちろん、沖縄にも定期的に旅行していた。だが、短い期間だったため地元の友達と遊んだり、ホストクラブで夜遊びをする程度の旅行でしかなかった。

 2007年6月。私は久しぶりに沖縄へ長期旅行を計画していた。目的も何もない沖縄。ふと、前回行けなかった久高島の存在が頭をよぎったのだ。そこで、久高島のことを色々調べていると、沖縄の友人からこんな言い伝えがあることを聞いたのだ。

「久高島に行くときは、先に『斎場御嶽(せーふぁーうたき)』で参拝をしないと、島に入ることすらできないって言われてるよ」

 ……マジで?

■沖縄でも最高クラスの聖地「斎場御嶽」とは

沖縄王国時代からもっとも権威ある聖地だった「斎場御嶽」

 斎場御嶽とは沖縄県南城市知念にある史跡で、15世紀〜16世紀の琉球王国・尚真王の時代から琉球王国の安泰と五穀豊穣を祈る祭祀が行なわれてきた祈りの地である。現在は、首里城跡などとともに「琉球王国のグスク及び関連遺産群」としてユネスコの世界遺産(文化遺産)に登録されている。

 御嶽とは沖縄南西諸島における祭祀を執り行う「聖地」の総称で琉球王国時代、神に仕えるのは女性だけだったため御嶽は男子禁制とされており、たとえ国王であっても入ることは許されなかった。男性である国王が「御門口(うじょうぐち)注1」を通過するには女性の服装に着替えていたとも伝えられている。

注1/御嶽に向かう参道の入口、あるいは神社でいう拝殿に当たる場所

 現在の斎場御嶽は、男女問わず毎年多くの男女の観光客が訪れるパワースポットとなっている。だが、霊感が強い人が行くと斎場御嶽のパワーの強さを肌で感じ、動画や写真を撮ると発光体やオーブが写り込むという噂がある。また、真夜中に訪れると霊に遭遇したり、心霊写真が撮れるともいうのだ。

 斎場御嶽は沖縄中で最も格の高い聖なる場所のため、ただの心霊現象とは異なる”祟り”にあうともいわれている。観光者のマナー違反が目立つようになったこともあり、御嶽を管理している南城市は聖地保護のため、ふたたび男子禁制に戻すことを検討しているという。

■ただ一人、禁忌を破ったから島に渡れなかった?

 そんな斎場御嶽の敷地内には、「神の島」である久高島が望める遥拝所がある。そこで参拝をしないと、久高島に受け入れてもらえない……と、先ほどの友人は言った。

 また、久高島に行く際にはこんな注意書きがあり、神の島と呼ばれている神聖な場所なのでリゾート気分で行かないこと、心して行かないと久高島に到着できないといわれていること……これって、すべて私のことでは? 友人の話を聞いてふと寒気がした私は、4年前に久高島に誘ってきたマイに連絡をとった。

ー久しぶり〜。あのさ、4年前に久高島にマイたち、行ってたじゃん。私が行けなかった時。あの時、斎場御嶽も行った?

ーえ? そういえば、島に行く何日か前に斎場御嶽に行ってお参りしたよ~

 マイいわくあの日、久高島に向かったメンバーは全員、斎場御嶽でお参りをしていったという。唯一、参拝をしなかった私だけが島に行けなかったのだ。こうなったら、ますます久高島に何があるのか気になる。覚悟を決めた私は、ふたたび沖縄へと旅立った──(後編に続く)。