事故物件怪談ブームの陰で咽び泣く全国の大家のために立ち上がった、”事故物件専門“の不動産管理会社「株式会社カチモード」。連載第1回では、代表の児玉和俊さんに、こんな奇天烈なビジネスに乗り出した経緯を伺った。続く第2回では、「事故物件の心理的瑕疵(かし)」を取り除くため、同社が切り札としている「オバケ調査」の実態について伺っていく──。
■事故物件で夜通し調査を敢行!
そもそも、どれだけキレイにリフォームされていようと、自殺や不審死のあった部屋を借りたい人はいない。幽霊を信じていなくても、積極的に借りたいとは思わない。それでも借りる人は、「相場より安いから」という後ろ向きの理由で嫌々住んでいる場合が多い。
児玉さんの仕事は、「安いから仕方なく……」という借主のネガティブな心境を、事故物件だけど家賃は相場どおり、「調査もされているので安心して住める」に変えることにある。
そこで、大家や借主に「事故物件だけど怪異とは無縁で安心」と納得させるには、目に見えてわかる証拠が必要。そこで児玉さんは、事故物件にビデオカメラはもちろん、温度計や電磁波測定器も持ち込み調査する。まるでゴーストバスターズみたいな重装備だ。
こうした機材とともに、夜10時から朝6時まで児玉さん自身が泊まり込み、ビデオ撮影をしつつ、温度や湿度の変化はもちろん、電磁場の変化まで測定して記録。後日、報告書にまとめて借主に納得してもらうわけだ。
夜通しひとりで事故物件に泊まり込み、機材とにらめっこ。やる気のほどが伺えるが……、
「いや、最初は張り切り過ぎて24時間やったんですが、借主が決まってない物件ですから、当然、水が止まっているんですよね。そうするとトイレが……(苦笑)」
怪異の前に生理現象が立ちはだかったわけだが、そんな試行錯誤もありつつオバケ調査は現在の夜間8時間体制になったそうだ。
■怪異の起こる「コアタイム」とは
こうして児玉さんがオバケ調査を始めて、これまで夜通し調査を行なった物件は38件。そのうち、実際に“怪しいこと”が起きたのは5件だったという。
「だんだん打率が上がっている感じがします。カチモードを始める前、十数年の不動産管理の仕事で担当したのはおよそ7000件で、そのうち不可解なことが起きたのは二十数件でした。300分の1ぐらいですね。その割合からすると当分出ないだろうと思っていたんですが……」
確率でいえば40倍以上に跳ね上がっている。もはやこれ自体が怪現象だが、これだけ遭遇する“打率”が上がると、ある傾向がわかってきたと語る児玉さん。
「怪異が起こる“コアタイム”があるんですよ。ふっと気づいた時に『空気が変わった』と感じ肌がひりつくことがある。それが決まって深夜の0時半過ぎ。で、3時半を過ぎるとまた空気が変わって、ひりつきがやわらぐんです」
この時間帯が一番怪異が起こりやすいと、ちょっと嬉しそうに語る児玉さん。でも「事故物件だけど安心」と証明するはずが、怪異が起こってはマズくはないだろうか?
■オバケが出たら金一封を進呈!?
「いや、その場合は基本的にうちが借り上げるんです。そもそも事故物件で損害を被ってる大家さんの損失をカバーするのがうちのミッションですから」
と、こともなげに語る児玉さん。しかも、上のオバケ調査のフローをよく見てほしい。もし怪異が起これば依頼者である大家に懸賞金を贈呈。さらに調査で”シロ”と判定された場合も、「安全な事故物件」として住み始め、万が一、怪異が起こった際には金一封を贈呈する「懸賞金付きの部屋」として貸し出すという。
確かに「物件の価値を戻す」のがカチモードの目的だが、懸賞金まで提供してワケアリ事故物件を借り上げるのは、いくらなんでもやり過ぎでは? 児玉さんが「開かずの間」を抱え込むだけではと心配になるが、
「実は借り上げた物件をYouTuberに貸し出したり、収益化できる仕組みを考えているんです」
と抜かりはないようだ。ただ実際には、怪異が起こった事故物件でも、なかなか借り上げには至らないという。「たとえば、こんな事例も──」と詳細は伏せて、児玉さんは語ってくれた。
「50代の男性が孤独死した部屋なんですが、その後の入居者がみな『人の気配がして住んでいられない』と同じ理由で退去されてしまったんです」
大家はむしろ「調査してオバケが出たら借り上げてくれるよね?」とノリノリだったそうで、児玉さんも物件を借り上げる事務的な手続きをしつつ、調査に入ったそうだ。
■肩越しに“なにか”がのぞき込む
部屋に入り、機材を設定して待機していた時のこと。
「玄関から狭いキッチンを抜け居室に繋がる細長い間取りで、玄関とキッチンの境目あたりで亡くなっていたそうです。居室からそこに向けてカメラや計測機材を設置していたんですが、ベランダに人の気配がするんです」
ただ、部屋は4階。もちろん振り向いても誰もいない。気のせいだとノートパソコン広げて作業していたが、ちょうど2時半ごろ、今度は真後ろから肩越しにのぞき込む“なにか”の気配を感じたという。
「見えないんですが気配はある。バッと振り返っても、暗がりが広がっているだけ。これだ、これは私が入居者でも絶対に退去するなと……」
■大家の態度が一変した裏には…
ただ、ベランダも児玉さんがいた場所も、男性が孤独死した場所ではない。必ずしも亡くなった場所で出るわけではないのかと思い、その話を大家にすると、さっと顔色が変わったという。
その後、大家は態度を一変、借り上げてもらう必要はないと言い出した。不審に思った児玉さんが、別の借り手が見つかったのか? と聞くとそんなことはないという。どうしても納得がいかず、食い下がると、
「『君にそんなこと言う必要ないだろう』と言われまして……もしかすると、50代男性の件とは別の事故があったのかもしれません」
深夜、肩越しにのぞき込んだ“謎の気配”。その正体は大家が語ることすら拒んだ別の”なにか”だったのかもしれない……。
(続く第3回では、児玉さん自身が遭遇した不可解すぎる事故物件について。乞うご期待)
●取材協力
株式会社カチモード(https://kachimode.co.jp/)