前編では動物が地震予知をしているかもしれないという日本と中国の例を取り上げた。「地中電位」という地面の下を流れる微妙な電流の変化を動物は捉えるらしい。そうした能力は動物だけのものと思いきや、どうも人間も電気の変化がわかるらしいのだ。 

 

■動物の地震予知はこれが理由? 準静電界の謎

サメのロレンチーニ器官。頭全体に分布している。

画像:Wikipedia

 地震の前に動物が騒ぐのは、地中の電気が変化したから。つまり動物には電気を感じる器官があるのだ。事実、ナマズやサメには微弱な電気まで感じ取るロレンチーニ器官(前回記事参照)があり、だから地震の前にナマズは騒ぐのだろうと。

 

 東京大学生産技術研究所機械・生体系部門の滝口清昭特任准教授によれば、サメの場合、およそ3メートル先の砂の中に隠れている魚の出す準静電界をキャッチし、襲いかかるのだそうだ。間違えて電線を襲うこともあるという。

 

 サメやナマズが準静電界の変化をキャッチすることは、五感ではとらえきれない獲物を見つけたり、仲間や敵の接近を知るためにある。言ってしまえば、地震予知は「おまけ」だ。

 

 しかし、犬や猫、鳥や牛馬にロレンチーニ器官があるなんて話、聞いたことがない。地震の前に動物が騒ぐことを科学がまともに扱おうとしなかったのは、この点にある。電気を感じる器官がないのに、動物が地中電位の変化がわかるわけないだろう、騒いだのは偶然に過ぎないというわけだ。実に科学っぽい見方だ。

 

 ところが人間や動物も、電気を感じる器官を持っていることがわかってきたのだ。読者の皆さんは「準静電界」という言葉を聞いたことがあるだろうか。

 

 電子機器や自動車のような電気を使う機械の周りは、静電気のような弱い電気の膜に覆われているのだそうだ。スイッチの入っている家電に近づくと、たまに腕の産毛が立つ感じがすると思うが、あれが準静電界だ。

しかも、人間からも準静電界は出ていて、体の周囲にふわっと広がっているらしい※1

※1「何となく感じる『気配』の正体? 『準静電界』の正体とは」https://style.nikkei.com/article/DGXMZO89389280W5A710C1000000/

 

■準静電界がオーラの正体か?

キルリアン写真
人体からはオーラが出ている? これは高電界で放電が起きている手を撮影したもの。 撮影:谷口雅彦

 この準静電界をキャッチする器官が人間にもあるかもしれないのだ。前出の滝口清昭特任准教授によれば、人間の場合、耳の奥にある内耳がサメやナマズの持つロレンチーニ器官の名残りだと考えているという。

 

 内耳には音を電気信号に変えて脳に送るための毛の生えた細胞=有毛細胞があり、体の中で有毛細胞の密度が一番高い。人間は内耳で準静電界をキャッチ、それを脳が「気配」として感じるらしい。動物は準静電界を人間のように内耳あるいは体表の有毛細胞でキャッチしているようだ。

 

 いわゆるオーラは準静電界のことかもしれない。マンガで「ハッ、殺気! 何やつ!」と天井に槍を刺したり、急に体の周りがゆら〜んと闘気が出るのも、準静電界で説明できそうだ。

 

 武芸の達人が殺気で壁越しの相手がわかるというのは、恐らく本当なのだ。壁越しに相手の準静電界をキャッチしているのだろう。だとすると座頭市は見えないのに全部斬っちゃうんだから、座頭市の内耳はほとんどレーダー並みだ

 

 道理で勝新太郎演じる座頭市が耳をピクピク動かしていたわけである。あれは音と同時に、レーダーがグルグル回るように、耳で準静電界を探っていたのだ!……知らんけど。

 

■テレビが発する「準静電界」を人間は感じ取れる

目隠し・耳栓の状態でテレビの準静電界を感じられるかの実験 画像:「準静電界による歩行者の変化」(第37回情報・システム・利用・技術シンポジウム 2014)

 準静電界は少し古い電子機器からは大抵出ているそうだ。たとえばブラウン管テレビ。これを使った目の見えない人向けのナビゲーションの研究がある。

 

 目隠しと耳栓をした被験者に前に向かって歩いてもらう。何か異変を感じたら、その場で止まるように指示しておく。前にはテレビが置いてあり、テレビのスイッチを入れている場合と切ってある場合がある。

 

 被験者がテレビにぶつかるまで歩くのか、どこかの時点で準静電界に気づいて足を止めるのかを調べる。

 

 実験の結果、だいたいテレビから平均4センチで、準静電界に気づくことがわかった。男女差があり、女性の方が1センチほど遠くで感じる。それだけ敏感ということだ。また男性は4人中2人、女性は4人中1人は何も感じなかった。それだけ鈍感ということだ。

 

■幽霊を体験! メリーさんの電話システム

「メリーさんの電話」システムの概略図。受話器に静電気を蓄電し、静電界を発生させる 画像:大阪大学

 準静電界の「何となくそこに何かがある感じ」を利用し、VRと組み合わせてホラーなガジェットにしたのが「メリーさんの電話」(※3)だ。

※3「メリーさんの電話」(第24回日本バーチャルリアリティ学会大会論文集 2019年9月)

 

 電話ボックスの中で電話をとると受話器から「私メリーさん、今、ゴミ置き場にいるの」と声がするというシンプルなもの。声の言う場所がどんどん近づき、最後は「私メリーさん、今、あなたの後ろにいるの」という昔ながらの怪談だ。

 

 体験者はメリーさんから3回電話がかかってくると言われ、電話ボックスに入る。3回目に受話器を耳に当てると冷却用の素子と蓄積された静電気で「体毛が立つぞくっとした感覚に加えて受話器が冷たく感じる」のだ。

 

■幽霊も準静電界、地球は準静電界

幽霊は準静電界? すべては電磁場で結びついているのか?

画像:写真AC

 何かいると思って振り向いたが、何もいなかったという経験は誰でもあるだろう。「メリーさんの電話」実験でわかったように、あれも実は準静電界を感じ取ったからかもしれない。

 

 ホラー映画で幽霊が現れると電球がパンパン割れたり、貞子がテレビから出てくるのは、実は幽霊が準静電場の塊で、やつらは電気製品を経由して襲ってくる……それは飛躍し過ぎだな。

 

 また、地中電位の変化は植物も探知できるという研究がある。地震に先立ち、植物も生体電位の変化が見られるのだそうだ(※4)
※4「樹木・大地・地震: 植物生理学と地球物理学の学際序説」(鳥山英雄/丸善プラネット)

 

 すべての動物も植物も準静電界を持ち、互いの気配を察しながら生きているわけだ。ということは、地球という星は気配りに満ちている……気配り、大事です…ね…ハッ、何やつ!