【前編あらすじ】その気もなければ、「沼らせテク」を使ってもいないのに、次から次へと男たちがハマっていく魔性の女。筆者カワノが大阪時代に出会った、店のナンバーワン・キャバ嬢、ユリカ(仮名)は、そんな魔性の持ち主だった。毎晩通い、あるいはオープンからラストまでカネを使う「太客」ばかりで順風満帆と思いきや、ユリカはその魔性ゆえに怪異に遭遇することに──。
■魔性に堕ちた太客Kがストーカーに!
「……なんでか分からないんだけど、向こうが勝手にのめり込んで来てくれるんだよね」
そうため息をついていたユリカ。もっとも来てくれる太客の一人だった50代の男Kからのストーカー行為に悩まされていた。
ある日の深夜、ラストオーダーとなり、会計をして店を出ていったK。だが、店がクローズして退店したユリカの目の前に、店前で待ち伏せしていたKが現れたのだという。
その時、Kがユリカになんと言葉をかけ、どんな行動を取ったのかはわからないが、怯え切ったユリカは店長に相談し、しばらくの間は店の送迎車で帰ることとなった。不気味なのは、そんなストーカー行為をしておきながら、Kは平然と店に通ってきたこと。しかも、待ち伏せ行為は収まらなかったという。
■ユリカを精神的に追い詰める太客K
ユリカは精神的に参ってしまい、店長に「Kを出禁にして」と相談したものの、待ち伏せ行為以外に直接的な被害がなかったため、それ以上、話は進まなかった。
しかし、ユリカも毎日来ている客にストーカーされてはたまったものではない。日に日にメンタルを消耗していったのであった。
「Kさん、そろそろ切ろうと思うんだよね」
ある日、ユリカがそうつぶやいた。
毎日店に来る上客を切ることには相当な葛藤があっただろう。しかし、ユリカの決意は揺るがなかった。彼女は店長に頼み、そのKを出禁にし、着信拒否にしたのだ。
当然、Kは激怒し、しばらくの間、店の前で待ち伏せすることが続いたが、気の強かったユリカは徹底的に無視したという。
■Kの母を名乗る女からメッセージが
そして、Kを切ってから1週間後、突然、ユリカの携帯電話に見知らぬ番号からメッセージが届いた。
「Kの母です。昨夜、Kが自殺を図りました。よかったら生前仲良くしていただいたユリカさんにお通夜に来てほしいのですが」
というメッセージとともに、住所と地図が送られてきていた。
「アユミちゃん、どうしよう。お通夜に行くべきかな」
ユリカはそう聞いてきたが、私は「なんとなく行かないほうがいいのでは?」と思い、引き止めた。店長やユリカの担当する黒服も私と同じ意見だった。
結局、ユリカはKの通夜には行かなかった。店によく通っていた客が亡くなったとはいえ、店の様子は特に変わることなく、その日は通常通り営業を終えた。
■身の回りで相次ぐ異変。そして・・・
しかし、それからしばらく経った頃、店の従業員に建て続けに異変が起こり始めた。ユリカの担当だった黒服のSくんが営業終了後に店の階段から落ちて骨折。さらに、店長が酔っ払った客に殴られて頭を2針縫う怪我を負った。
さらに私にまで不運が訪れた。客が次々と離れていったのだ。もちろん、私の営業が悪かったのかもしれないが、離れた客たちに特に変わった様子はなかった。本当に突然のことだった。しかも、急に客が離れたのは私だけでなく、店の雰囲気もなんだか暗くなった。
そして、当のユリカはというと店を休みがちになっていた。ある日、無断欠勤したので店長が心配して電話をかけると、ユリカは電話に出たのだが、
「……!? …………」
と、確かに電話の向こうにいるものの、ずっと黙ったまま。気味が悪くなった店長が「ユリカ、どうしたんだ?」と問いかけると、突然こう言ったという。
「……Kが……家の下にいて出られない」
営業中だったため、店長もユリカの元に行くことができなかったが、ユリカはその日以来、おかしなことを口走るようになっていた。
■Kの影に怯え続けるユリカは…
「ユリカが事故に遭ったらしい」
それから十数日後、店長が慌てた様子でそう言ってきた。話を聞くと、ユリカはその日、久しぶりに店に出勤した。そして、その日の帰り道、タクシーを降りようとしたとき、後続から走ってきたバイクと接触したのだ。幸い、ケガは軽かったが、家に見舞いに行くと怯えた様子でこう言った。
「バイクの運転手の顔がKに見えたんだよね」
ちなみに、接触したのは20代の男性でKとはまったくの別人だった。それはユリカ本人もわかっているはずなのに、「あれはKだった」とひどく怯えた口調で言っていた……一体、ユリカの身に何が起こったというのだろうか?
結局、しばらくしてユリカは店を辞めることとなり、そのまま音信不通になった。数年後、奇跡的に再会したが、Kへの恐怖から1年ほど大阪を離れ実家に帰っていたという。さらに、ユリカが辞めて2か月後に店まで潰れてしまった。
■死んだはずのKが笑みを浮かべて
そして、店の最終営業日、人通りも途絶えた深夜、店から出て送りの車に乗り込もうとした私は、ふと視線を感じて振り返った。
そこには……死んだはずのKが遠くから静かな笑みを浮かべて立っていた。離れた場所にいたのに、ピクリとも動かず、口角だけをキュッと上げ虚ろな目をしたままの不気味な表情は、なぜかはっきりと私の目に映った。
いまにして思えば、もしかするとKは実際には死んでおらず、あのメッセージも母親のふりをしてユリカを呼び出そうと企んでいたのかもしれない。
それとも、本当に亡くなって幽霊として現れたのか。今でもたまに思い出す。あの日見たKの不気味な笑顔を、私は忘れることができない。