「日本軍が遭遇したUMA」の前編では、古代の海棲爬虫類(はちゅうるい)モササウルスの生き残りと推測される「奇妙なワニ」と日本軍の激闘を紹介したが、続く後編では、さらに奇妙な「半魚人」「人喰いオオトカゲ」との遭遇という、戦場奇談を紹介していこう。

 

 

■日本兵に食われた伝説の人魚?

 

オラン・イカン
2024年東京国際映画祭で公開された、インドネシア、シンガポール、イギリス、日本の四か国合作によるホラー映画「オラン・イカン」

 

 日本軍が遭遇したUMAでもっとも有名なのは「オラン・イカン」だ。2024年の東京国際映画祭で公開された、戦時中のインドネシアを舞台としたディーン・フジオカ主演のホラー映画「オラン・イカン」でその名を見かけたかたもいるだろう。

 

インドネシアで「オラン・○○」といえば、電脳奇談の読者ならピンと来た方もいるだろう。猿人タイプの大型UMA「オラン・ガダン」、フローレス原人の生き残りともされる小型のUMA「オラン・ペンデク」など、インドネシアはUMAの宝庫だ。

 

オランはマレー語で「人間」で、16世紀ころまで西洋では「人語を解す巨大な猿」のようなUMAとされていた「オラン・ウータン」も意味は「森の人」だ。

 

 しかし、「オラン・イカン」が飛びぬけて奇妙なのは、後半の「イカン」の意味。実はイカンとは「魚」を意味し、両方を合わせて魚人もしくは半魚人なのだ。そして、南方戦線において、この半魚人が捕獲され、しかも日本兵に喰われてしまった(!)という奇談があるのだ。

 

オラン・イカン
インドネシアの伝説の半魚人オラン・イカンは実在していた!? 画像:shutterstock(生成AI画像)

 

 

■半魚人を焼き魚にした味は?

 

焼き魚
半魚人だから焼けば確かに「焼き魚」ともいえるが、ある意味「食人」では? 画像:Public Domain via Wikimedia Commons

 終戦間近の1945(昭和20)年、インドネシア西部、アラフラ海に浮かぶケイ諸島の歩兵第42連隊第1大隊本部に、現地の村人たちが不気味な死体を運び込んだ。

 

「オラン・イカンを捕まえた!」

 

 と興奮した村人たちが示す死体を、堀駒太郎軍曹が確認すると、身長が1メートル50センチほど、イルカやクジラのような黒光りした体表には貝殻や藻がびっしりとへばりつき、赤茶色の髪は首に届くほどだった。

 

オラン・イカン

黒みがかった褐色の肌に赤茶色の髪……どう見てもヒト科と思うが食べていいのか?

画像:AdobeStock/FireFlyで作成(生成AI画像)

 

 顔は額が広く、鼻や目は人間そっくりだが、横一文字に閉じられた口は唇がなく魚類のようだった。しかも、手足の指のあいだには薄い膜のような「水かき」もついていたという。

 

 死体は衛生兵が肉を切り分け、8頭のオラン・イカンを焼き魚にしたという。4、500人の兵士に振舞われ、堀もこれを食べた一人だったが、味は「鯨よりはうまかった」らしい。

 

 

■「半魚人と遭遇」説の真相は…

 

 半魚人の“グルメリポート”まで出てくると、かえって眉唾な気もするが、1943(昭和18)年から終戦後まで、ケイ諸島に第42連隊第一大隊が駐屯していたのは事実。

 

 そして、南方戦線のほかの部隊と同様、第一大隊も深刻な食糧難に見舞われていた。当時の兵士の手記によると、1メートルを超すオオトカゲから蛇、コウモリにワニ、海亀まで食っていたそうだ。

 

 なかでも「殺すときにポロポロ涙を流すのがやりきれなかった」という証言が残っているのがジュゴン。いわずと知れた人魚伝説のもととされる大型海棲ほ乳類だ。

 

ジュゴン
半魚人伝説のもともジュゴンだった? 画像:AdobeStock(生成AI画像)

 島ではときどき半魚人の姿が目撃されたとか、兵士が浜辺でオラン・イカンの親子が遊んでいる姿を見たといった「オラン・イカン伝説のもと」も、おそらく、この辺にあるのではないだろうか?

 

 実際、数百人はいたはずの「半魚人を喰った兵士」が、堀をはじめ誰一人オラン・イカンに関する証言をしていない。復員兵が語る「人魚(のモデルのジュゴン)を食った」という土産話が、次第に尾ひれがついて伝説が生まれていったのかもしれない。

 

 

捕虜を喰らったタイのドラゴン

 

コモドドラゴン
タイの洞窟に現れた「人喰い大トカゲ」の正体は……? 画像:shutterstock

 捕まえたUMAを食ってしまうとは、荒っぽい戦場の男たちらしい都市伝説だが、逆に、人を喰い漁った巨大トカゲを退治した日本軍のエピソードも残っている。

 

 時期は不明だが、このUMA遭遇事件が起こった場所は東南アジアのタイだとされる。捕虜に橋をつくらせていた日本陸軍の部隊は、洞窟を収容所代わりにしていたのだが、捕虜が日に日に減っていく。脱走かと兵士が洞窟内を調査したところ、奥から飛び出したのは巨大なオオトカゲだった。捕虜たちはこの怪物に食べられていたのだ。

 

 兵士は手りゅう弾を投げつけ、これを退治。以後、捕虜の失踪はなくなり、オオトカゲの頭は隣町に保管されたという。

 

コモドドラゴン

時に人間を襲うこともあるコモドドラゴンだが、タイには棲息していないという。

画像:shutterstock

 

 この巨大トカゲは、コモドドラゴンの亜種だともいわれるが、この種はタイに生息していない。動かぬ証拠の「オオトカゲの頭」も消息不明で、正体は今も謎のままだ。

 

 これらのUMAが実在したのか、今となってはわからない。また、戦場という極限状態が引き越した集団幻覚だと断ずる方もいるだろう。

 

 だが、地球上に生息する推定870万種の全生物のうち、約9割が未発見だとされている。兵士がいまだに存在が確認されていなかった怪生物に遭遇しても不思議は何もないのだ。

 

 

【参考資料】
『幻の動物たち 上』
ジャン・ジャック・バルロワ・著/ベカエール直美・訳(早川書房)
『世界のUMA 未確認データブック』横山雅司(日本文芸社)
『大迫力! 世界のUMA未確認生物大百科』天野ミチヒロ・監修(西東社)
『日本軍の怪奇話』藤本泰久・著(キジバト社)
『山口歩兵第四十二連隊史』山口歩兵第四十二連隊史編纂委員会・編著