■静寂と嵐のあいだのイ・ジョンジェ
本作の描写は基本的に「静」で、当時の韓国映画には珍しく「余白」の多い映画である。ソヒョンもウインも口数は少ないが、その余白に点を打つように少しずつ静寂が破られていく。その役割をウイン役のイ・ジョンジェが担っている。
象徴的なのは次の3つの場面だ。
1、待ち伏せ
ウインがソヒョンを高級家具店で待ち伏せする。店内を歩くソヒョンは誰かとぶつかりそうになり、顔を上げるとそこにはウインが。破顔するソヒョン。ウインも顔をくしゃくしゃにして笑う。
2、雨、ジャスミンティー、突然のキス
雨の夜、ウイン宅でジャスミンティーをごちそうになるソヒョン。クルマで去ろうとするソヒョンがあいさつしようとウインドウを下げるやいないや唇を奪うウイン。黙ってクルマを発車させるソヒョン。
3、エレベーターの中の抱擁
ウインがソヒョン宅に招かれ、夫と3人で会食する。和やかなようで、かなりぎこちない。大きな水槽を眺めながらソヒョンの夫が言う。
「水の流れも温度も適切。食べ物もしっかり与えられる。魚は憂いなく泳いでいればいい。幸せとはそういうものだ」
夫がソヒョンをどう見ているがわかる台詞だ。
ウインをマンション1階まで送るため、ソヒョンは一緒にエレベーターに乗る。背後からソヒョンを抱きしめるウイン。
「やめて。私はあなたのフィアンセの姉よ!」
このあとはみなさんの想像どおりである。
終盤、物語を急展開させたのはソヒョン宅の水槽の決壊だ。映画全体に貫かれてきた静寂は、この瞬間のためにあったのではと思うほど衝撃的な場面だった。
若き二枚目イ・ジョンジェを存分に楽しめる『情事 an affair』。筋肉美が強調されなかった次作『純愛譜』と違い、サービスショットもたっぷりなのでぜひ観てほしい。
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