■ユ・アイン&キム・ユンソク主演映画『ワンドゥギ』(2011年)
不良高校生ワンドゥク(ユ・アイン)と担任教師ドンジュ(キム・ユンソク)は同じタルトンネ(山の斜面にある庶民の生活圏)に住み、しかも、隣り合わせの多世帯住宅のオクタッパンに住んでいた。
屋上が同じくらいの高さなので、ドンジュはたびたび大声でワンドゥクを呼び出し、韓国ではヘッパンと呼ばれるカップに入ったレトルトごはんを投げてもらう。貧しい者どうしの助け合いといっては身も蓋もないが、たまにワンドゥクが投げたヘッパンがドンジュまで届かず、建物と建物の間に落ちてしまうのが可笑しかった。
■チャ・テヒョン主演『覆面ダルホ 演歌の花道』(2007年)
ソウルの音楽事務所にスカウトされて上京してきたロック歌手ダルホ(チャ・テヒョン)が訪ねた事務所は、ビルの屋上にあるオクタッパンだった。
ギターを背負ってのこのこ上がってきたダルホが開けた事務所の引き戸は、いまどき大衆食堂でも聞けないほどガタピシだった。その横には豚足などの出前のチラシがぶら下がっている。壁には「歌こそ我が人生」の貼り紙が。ダルホがいぶかしげに事務所のソファに座ると、企画室長(チョン・ソギョン/『新感染 ファイナル・エクスプレス』のKTX運転士役)が言う。
「ちょっと狭いけど、アートっていうものはこういうところから生まれるんだ」
その事務所には有名歌手は所属しておらず、しかも演歌専門だと知り、ダルホは絶望するが、そこにチャイナドレス姿の美人歌手ソヨン(イ・ソヨン)が入ってきて、彼の態度は一変する。
コミカルな場面でオクタッパンが使われた珍しい例だ。
■ホン・サンス監督作品『豚が井戸に落ちた日』(1996年)
ホン・サンス監督の長編映画デビュー作であり、ソン・ガンホの映画デビュー作という、ものすごい作品である。
売れない小説家ヒョソプ(キム・ウィソン/『新感染 ファイナル・エクスプレス』の利己的なバス会社常務役)がレンガ造りのオクタッパンに住んでいる。
後半、ヒョソプの恋人である人妻ボギョン(イ・ウンギョン)がオクタッパンを訪ねるが、ヒョソプは留守だった。所在なげに佇むボギョンに隣のビルのオクタッパンに住む女性が「何してるんですか?」と声をかける。「会う約束をしたんですが、留守みたいで……。すみませんけど、お金を落としてしまったので1万ウォン貸していただけませんか?」ボギョンは初対面の女性に金を借りようとする。5千ウォンを受け取って去るボギョン。隣の女性は鉢植えに目をやり、ボギョンに聞こえよがしに言う。「あの人(ヒョソプ)、また唐辛子もいで行ったわ」
ある意味オクタッパンらしい、寒々しい場面だった。